• 2014年08月

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 何事もなかったことを確認すると繁雄はひとまず胸をなでおろしたが、和希の前に倒れ込んでいるなずながいるのに気付き慌てて駆け寄った。


「おい、なず! …なずっ! 大丈夫か!」


 繁雄が上半身を抱き起して肩を揺さぶると、なずなの眉間にしわが寄り、ゆっくりとまぶたが押し上げられていく。


「うぅん…」
「よかった…なんともないな?」
「え…………ひゃあっ!」


 真ん前に繁雄の顔があることを認識したなずなは、慌てて飛び起き、なぜだか敬礼して見せた。


「だ、だ、だ、大丈夫であります!」
「いや……大丈夫かどうかはかなりあやしなったけど、まぁ、無事、やな?」

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(で、出たーーーーーーーーー!)


 なずなは必死で出そうになる声を堪えた。相手は露骨に性的な要求をして見せる異常者である。こちらのどんな行動がきっかけとなって暴挙に出るかわかったものでない。

 極度のパニックに何とかすりつぶされずに済んだ最後の理性のひとかけらで、なずなは腰を上げ、和希と美也を守るように変質者の前へと立ちはだかった。両者の距離は五メートルもない。この場の最年長者である自分が二人を守らなくては、その責任感だけが、気弱で臆病ななずなを奮い立たせていた。


「あ、あ、あっちに行ってください! けぇさつ、呼びますよ!」


 振り絞った声でそう言って、なずなはスカートのポケットに手を入れる。たまたま入れたままにしていた携帯電話の存在を思い出したのである。その確かな手触りを指先に感じると、なずなはほんの少し落ち着きをとりもどした。

 が、

「………………あ」


 それも束の間、気を失ってその場に卒倒した。

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 自分に頭を下げた時の繁雄の目に赤みがあったのを、北村さんは見抜いていた。

 繁雄と和希には、両親がいない。

 父親も母親も、繁雄が中学に上がって間もない頃不慮の事故で他界した。商店街組合の組長である老夫婦が、遠方の親戚に代わって面倒を見ていたのだが、義務教育の終了を契機に繁雄が親の店を継ぐ決心をした。今は妹の和希と二人で暮らしている。

 両親が遺してくれた僅かな蓄えがある間に、なんとか店で生計を立てられるようになりたい――そういう考えで、繁雄が必死に努力を重ねる姿を、北村さんはよく知っていた。そして、自分にもまだ大人の支えが必要であるのに、親代わりとして和希に接しなければいけない、という辛い立場にあることも。

 …だからといって、自分に出来ることなど何もない。せいぜいうどんを食べに来て、店番するのが関の山。

 北村さんはもう一つ溜め息を吐いた。このお人よしが自分以外の者のために吐いた溜め息は誰の耳に届くこともなく消えた。


 刻は既に十六時を過ぎ、八奈結び商店街も夕日に浸される。

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 またも静けさが、しばし店内に訪れる。北村さんが何か声をかけようかとようやく決心した時、繁雄が鈍重な足取りで戸口へと向かった。力なく戸を閉めて、のそのそと厨房へと戻る。


「…なんや、すまんです。やかましゅうて」


 繁雄は手拭越しにがりがりとかいた頭を下げた。すぐ替えの椀を用意し、醤油を入れて北村さんに渡す。兄妹のこうした諍いは毎度のことなので今更北村さんには不愉快には思われないのだが、改めて謝られてしまうとどうにもかしこまってしまう。

 雑巾をもって厨房からまた出ると、繁雄は椀の割れたところにしゃがみ込んで片付け始めた。北村さんはその背中におずおずと話しかける。


「やぁ、まぁ、かまへんけど…ええんか、あれ」
「なにがです」


返す繁雄の声は、年相応にむくれている。片付けをするその動作も、働き者の繁雄らしからぬぞんざいなものだった。


「かっちゃん…ヤケ起こして変なことせんやろか」
「…ほっといたらええんです、あのアホ。自分でなんちゅうことゆうてんかも、わかっとらんのです」
「せやけどやな…」


 何とかつなごうとするたどたどしい北村さんの言葉に被さって、


「うん、和希はわかってないだろうね」


 と、涼やかな声が店内に響いた。

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「和希、もっと静かに入ってこいゆうとるやろ」


 水をよく切った麺を携えて再び厨房の前に構えた繁雄は、元気良さを持て余すような動作で戸を閉める妹を一瞥して言った。動くたび背負ったランドセルの冠がばたんばたんと跳ねまわる。既に留め具を壊してしまっているので、来年卒業を迎えるまでそのままである。


「なんでよぉ、別にえーやん」


 釘を刺された本人である和希は、すぐさま顔を膨らせて見せる。もちろん繁雄はそんなもの意に介さない。


「ようない。お客さんが落ち着いて飯食われへんやろ」
「あっ、北村のおっちゃんやん」
「はは。今日も元気やねぇ、かっちゃん」


 そこでようやく、和希はカウンターに客がいるのを認めた。全方位から見て〝人が好さそう〟と太鼓判を押せる風貌をした北村さんは、店の常連で、繁雄のうどんを食べに足を運んでくれる。五軒隣で文房具屋をやっているこの人当たりのいい中年は、この八奈結び商店街の中で若くして店を構える繁雄のよい理解者だった。だからこそ、その厚意にもたれかかりたくはない、と繁雄は思っている。

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 夏の日差しが、八奈結び商店街のアスファルトを焦げ付かす。

 アーケードもない商店街の通りをじりじりと熱して、向こうを見渡そうとすれば像が姿をゆらりとくゆらす。午後三時を過ぎた頃、涼しい夕風を期待するにもまだ少し遠い時間帯。

 それでも微かな風が、どこかの店先の風鈴を鳴らした。呼応するように、あちこちで軽やかな音色が立ち上る。遠くに聞こえる蝉の合唱と相まって、ちょっとした演奏のようになる。

駄菓子屋の主人の小東さんが、うちわを仰ぐ手をゆっくり止めた。ふと見やれば軒先に吊るした小さい『氷』の掛け軸が、ほんの少し揺れて、じきにまた動かなくなる。小東さんは首にかけた白い手ぬぐいで、こめかみから垂れてくる汗をぬぐってから、よっこらしょ、と掛け声をつけて立ち上がった。

 もうしばらくすれば、授業を終えた小学生たちが商店街を賑わせに来る。彼らは家にランドセルを置くと、また外へと遊びに繰り出す。その中には、小東さんのかき氷を食べに来る子らもいる。小東さんの皺だらけの手で丁寧に削られた氷は、いちごかレモンかメロンのシロップが掛けられる。どれも子どもたちには大人気である。

 小東さんが一日で一番忙しい時間帯へ向けて準備をしようと店先に出ると、果たして一番の常連が、向こうから走ってくるのがぼんやり見えた。頭の上に左右に結わえた髪をなびかせて、いつものように元気いっぱいに駆け回る姿を、小東さんはよく知っている。小東さんだけじゃなく、八奈結び商店街の、誰もが彼女を知っている。

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2014年下半期
5回連続新刊発行チャレンジ記念!
スタンプラリー企画を開催します



COMITIA109・第二回文学フリマ大阪・本の杜6・COMITIA110・第19回文学フリマにて
それぞれ発行される『こんぽた。』の新刊(◆印のもの)を当日お買い上げの方に、
スタンプカードをお配りし、ひとつずつ判を押させて頂きます。

合計2 or 3つ以上スタンプ集めてくださった方に、
ささやかですがCOMTIA110もしくは第19回文学フリマにてノベルティをお渡しします。
今のところ、
・2個集めていただいた方⇒インスタントスープセット
・3個集めていただいた方⇒スープセット+トートバック、の予定です。


新刊の刊行予定は下から!

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COMITIA110 2014年11月23日(日)

◆『ミス・アンダーソンの安穏なる日々』
オンデマンドA5判|150P前後予定|600円予定|おねショタ!
進捗:絶賛連載中
連載作品をまとめて一冊にするよ! 
プロローグと、小話『アーティ3分クッキング』(計4本)を書き下しました。

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第十九回文学フリマ 2014年11月24日(月)

◆『その水を飲んだW氏の顛末』
コピーA6判|20P~40P|100円予定|報酬系シリーズ
進捗:俺には見えている! お前の終着駅!
不条理系短編(読切)、《報酬系》シリーズの新作です。
学校の用務員W氏と秋の夜長プールサイドである儀式をする少女の奇妙な交流の物語。

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発行済みのものは追記からどうぞ。

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プロフィール

世津路章

Author:世津路章
一次創作小説を書いています。

コメント欄は管理できないため閉じています。

◆リンクについて
当ブログはリンクフリーです。ただし、アダルト・宗教系サイトは除きます。
◆作品
当ブログ及び小説家になろうにて、『ミス・アンダーソンの安穏なる日々』『八奈結び商店街を歩いてみれば』を連載しました。前者はおねショタ小説で、2017年7月に電撃文庫より刊行されました(無敵の女傭兵ミス・アンダーソンを抹殺すべく派遣された羊ショタ執事悪魔(レベル1)のどたばたコメディ)。後者は大阪のどっかにある商店街が舞台のなにわ人情お約束劇です。

アイコンは岡亭みゆ様にご制作頂きました。

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