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オカザキレオ様主催の『君と夏祭り』企画に参加させて頂きました!

『林檎飴はすべてとかして』
使用お題>>
『夏祭り』+『リンゴ飴』 (書き終わってみたら『帰り道』『迷い子』もかも)


続きは追記からどうぞ!

++++++



 彼はもうずっとその森の中をさまよっているのでした。

 深く、終わりなく、木々の葉がざわめく音ばかりに囲われて、彼のちっぽけな泣き声なんて、かき消されてしまいます。大人たちは彼の現し身こそ見つけてはくれましたが、肝心の彼には気づきもしないで、さっさと行ってしまったのです。以来彼はずっと、その森の中ひとりぽっちなのでした。

 もう暑いだとか寒いだとか、暗いだとか明るいだとか、そういうのがわからなくなってずいぶん経ちましたが、それでもその日、森がいつもと違う雰囲気をまとっているのを、彼は感じ取っていました。どこか心躍る、陽気な空気のふるえ。それは絶えかけていた彼の意識をわずかばかりやさしく呼び起こしたのでした。

 それでも、どうしても彼が動けずにいると誰かが傍らの落ち葉をかさりと踏み鳴らしました。

 そこにいたのは小さな女の子でした。彼が肉体を持っていた時と同じくらいの年頃で、小学二年生、といったほどでしょうか。彼女はハッピとねじりはちまちを着けているのですが(そう、確かあれらはそういう名のはずだ、とこのとき彼の意識はより明瞭に働いたのです)、不思議そうに彼を見つめるその視線はまるで、お人形のようなのでした。

 そこに更に足音が重なりました。といっても、とふんとふん、と、重たいのだか軽やかなんだかよくわからない足取りで、よく見てみるとその主は人でなく、でっぷりとした黒猫なのでした。

 黒猫が、ぶみゃあ、と悲しげな声をあげました。

 もう、ておくれだ――なぜだかそう言っているのだと、彼にはわかりました。

 すると女の子が、彼を見つめるガラス玉のようなその目を、わずかばかりにくもらせました。それは余計なものがなにもなく、ただかなしみだけを映し出しているまなざしで、そんなたいそうなものを彼はこれまで一度だって受け取ったことがなかったのでした。

 女の子はしゃがみこむと、彼に向けて何かを差し出しました。

 その右手に握りしめていた、林檎飴でした。

 もう、現し身を喪って長いこと経つというのに、なぜだか彼はそれを受けとることができるという確信がありました。おずおずと手を伸ばし、割り箸棒に触れました。

 女の子の指先が離れ、く、と落ちる感覚。彼は慌てて手のひらに力をこめて、林檎飴を握りしめました。

 手を胸元に引き寄せると、林檎飴のその赤の、つやつやとした輝きが彼の意識をあたたかく包み込み、気づけば彼はかちりと一口かじりました。

 飴のあまさ。果肉ののすっぱさ。皮のざりざりと舌を擦る感触。


 ――おかあさん、りんごあめ、かってよう。


 あの日言えなかったその思いが、ようやく今叶えられたのです。

 朽ちかけていた彼の意識は、この時をもって次第に薄く希釈され、徐々に拡散していきます。しかしそれは、彼が迎えようとしていた非業の末路とは異なって、光をまとい、めぐりゆくためのものでした。


「ありがとう」


 それは声でない、生命に直に響く音色となって、女の子と黒猫にふりそそぎました。

 彼女たちの目にも彼の姿がどこにも見えなくなった頃、森の外――境内から祭りのお囃子が聞こえてきました。

 あの赤い丸がきれいになくなった割り箸棒をにぎりしめさ、女の子は黒猫とともに、境内めがけて走って去っていきました。



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『おねショタ』『ファンタジー』『一次創作』『小説』
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世津路章

Author:世津路章
一次創作小説を書いています。

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◆リンクについて
当ブログはリンクフリーです。ただし、アダルト・宗教系サイトは除きます。
◆作品
当ブログ及び小説家になろうにて、『ミス・アンダーソンの安穏なる日々』『八奈結び商店街を歩いてみれば』を連載しました。前者はおねショタ小説で、2017年7月に電撃文庫より刊行されました(無敵の女傭兵ミス・アンダーソンを抹殺すべく派遣された羊ショタ執事悪魔(レベル1)のどたばたコメディ)。後者は大阪のどっかにある商店街が舞台のなにわ人情お約束劇です。

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