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はい、というわけで。

エイプリルフール記念

八奈結び商店街を歩いてみれば
     ×
ミス・アンダーソンの安穏なる日々

セルフクロスオーバーパロディ


後半はっじまーるよー


◆◆『八奈結び商店街を歩いてみれば』
大阪のどっかにある八奈結び商店街で織りなされる、
5人の少女のなにわ人情お約束劇!
⇒一話は全話WEBでご覧いただけます(目次はこちら
⇒同人誌版の紹介はこちら/通販ページはこちら

◆◆『ミス・アンダーソンの安穏なる日々』
人類最強の女傭兵VS羊ショタ執事!
ごはんおおめのおねショタファンタジー!
全編WEBでご覧いただけます
 (※4/3以降、WEB・同人誌あわせて公開・頒布を一時休止しています。
   再開は秋ごろ、新作公開と同時の予定です)

ではではつづきは追記から!


おねショタ ファンタジー 創作 オリジナル

   +++


 さて、場面は再び八奈結び商店街、繁雄のうどん屋に移る。

 行き倒れていたところをなずなに拾われた女の子――こと、安平あんなは、ふくれっ面を晒しながら元のテーブル席に座っていた。出入り口には変わらず千十世が居座り退路を断っている。繁雄はカウンターの中から出てきてなずなと二人、あんなの向かい側に座り込んでいた。

 千十世は質問の返事待ちという体でいつもの人の悪い笑い顔を浮かべている。それが癇に障るのか、あんなはそっぽ向いてむくれてだんまりだ。なずなは自分が拾った女の子の正体にまだ目を白黒させている。なんとも言えない空気が漂う中、とりあえず何か会話を、と口を開けたのは店主の繁雄だ。


「……それにしても千十世、よぉわかったな。テレビで見るんと全然ちゃうやん?」


 彼の頭には、先ほどテレビで見たあんなの姿が浮かんでいる。髪が黒いのは同じだが、劇中のあんなは碧眼をカラーコンタクトで隠していたし、大正時代の話なので髪型も古風な結い方をしていた。パッと見の印象が大きく違うので、連続テレビ小説の視聴者であるなずなが気づけなかったのも無理はない。

 これに対し、千十世は何気なく返事する。


「ああ、調べたことがあったからね。ヒロインの子ども時代誰がやってるんだろ、って」


 と、これにあんなの耳がピクリと反応する。


「なんや、結構見る目あるやん?」
「うん、だって一回見たら忘れらんないよ」


 ニコニコそう言う千十世に、あんなはすっかりご機嫌になる。が、


「あんな全力の大根演技、よく使う気になったなって。子ども時代とはいえ、ヒロインなのにさ」


 笑顔のままさっくり切り伏せる千十世に、繁雄となずなは椅子から転げ落ちそうになった。勿論、千十世の舌はそんなことではとまらない。


「いまどき、子役のレベルだって水準が上がってるのにあれでよく画面に映る気になれたなって。ドラマ全体の流れで見ても、幼少期のシーンが結構重要なウェイト締めているのは明らかだし、それならもっと説得力ある画が欲しいよね。一本調子な怒鳴り声ばっかで、聞いてて朝からやる気萎えちゃうし。いったいどうしてこの娘がこんな大役に抜擢されたのかなって色々調べてみたんだけど、芸歴一年未満だしどうも事務所の七光り説有力? っていうかデビュー直後にこんなチャンス掴むなんて」
「ストーップ!! ちぃくん、それ以上はあかん!!!!」
「おま、もっと、オブラートに包めや!!!」


 繁雄となずなが耐え切れず、立ち上がって強襲し口を塞いだことで千十世の暴言はひとまず止まった。本人的にはまだ言い足りないようだが、さほど執着もないようで特に抵抗はしない。

 初対面の人間にこれだけズケズケ言われてはたまったものではないだろう……と、繁雄はあんなに目をやったが、意外にも彼女は今までで一番冷静な面持ちをしていた。


「フン、ほんま見る目あるみたいやな。……全部あんたの言う通りや」
「あんなちゃん……」


 なずなが思わずいたわしげに声を出すが、そんな心配ご無用とばかりにあんなは苦笑して髪をかき上げる。


「そんなん、自分が一番ようわかってる。週刊誌でもネットでも散々叩かれたしな。初めての大役に緊張して……なんて、言い訳にもならへん。結果は結果や。そこでウチはしくじった……それだけや」


 そう言うと、あんなは顔をうつむかせた。繁雄となずなは気まずくて言葉を濁す。千十世だけが、面白くなさそうな顔であんなのことをじっと見ている。

 またも気まずい沈黙が訪れようとした店内だが、タンタン、と出入り口の戸が叩かれる音がした。繁雄が「あ、はーい」と返事をすると、ガラガラと開く。


「失礼――こちらに女の子が運ばれてきたと伺ったのですが」

 戸を開けたのはスラリとした背広姿の青年で、どことなく都会人、という佇まいだった。モデルと言っても通用しそうな容貌で、なずななんかはほーっと見惚れてしまっている。そんな彼女を千十世は引っ張って奥のほうに進み、出入り口を開けた。残された繁雄はこの場違いな来客を、やや胡乱気に見やりながら尋ねる。


「ええっと、オタクはどちらさんで?」


 青年は繁雄の視線を気にすることもなく懐から名刺入れを取り出し、一枚繁雄に差し出す。


「お騒がせしております。ご迷惑をおかけしたそこの安平あんなの保護者です」
「保護者……?」


 繁雄よりは年上だが、青年はどう見ても二十代半ばといったところで、どうにも肉親の類には見えない。が、名刺を見たことで解決した。

『EVGプロダクション 安平あんな専属マネージャー A』――素っ気なく、そう書かれている。


「……これ、名前なんて読みますのん?」
「いかようにでも」


 繁雄の問いに青年――Aは素っ気なく言うと、繁雄に対して頭を下げた。


「ご協力のほど感謝致します。携帯電話のGPSで途中までは追跡できたのですが、落としたのか、途中で電源を切ったのか、この付近で反応も止まり急に足取りが掴めなくなりまして……皆様のようなご良識のある方に保護して頂いて僥倖でした。大変恐縮ですが本日はこの後予定が入っておりまして、後日改めて御礼に参ります」
「は、はぁ……」


 Aは非常に丁重に礼を述べたが、鉄面皮の顔と淡々とした声に、「ほんまにそう思ってんのか」とツッコみたくなるのを何とか堪える繁雄だった。Aの方は構わず、頭を上げると店の奥に声を投げる。


「あんな、そろそろ頭も冷えたでしょう。帰りますよ。皆様にお礼は?」


 しかしあんなはAの方を見ようともせず、ここにきて最大級の機嫌の悪さを発露していた。気の弱いなずななどは、見ているだけで悪寒を覚えるほどの不機嫌さだ。Aはしかし冷然とした態度を崩さず、店内に一歩入り再度促す。


「帰りますよ。明日から福島でロケです。移動の準備が遅れています、急いで下さい」
「うっさいハゲ! お前なんか知らんわ! クビや言うたやろ! マネを深亜に戻すまでウチ仕事せぇへん!」


 大人相手に、あんなは負けん気の強い語調で返す。Aの方はしかし、やはり淡々とした口調で続ける。


「僕の解雇権は貴方にありません。念のため社長のお耳にも入れましたが、深亜さんは現在受け持っている方の担当をしばらく外れることが出来ませんし、他に適任者がいませんので、僕がこのまま続けるようにということです。いい加減現状を認めてください」
「………せぇーやぁーかぁーらぁー………!」


 あんなが勢いよく椅子から立ち上がる。


「お前の! そういう! ところが! 好かんゆうてんねん!! このっ、ボケナス!!」


 ――子役とはいえ、役者だ。その声量は店内に反響し、繁雄もなずなも千十世も思わず耳を塞いだ。ただAだけが変わらず鉄面皮のままで、冷え冷えとした眼差しをあんなに注いでいた。それを見たあんなは青い瞳の奥に激しい炎をたぎらせたものの、それを吐き出す代わりに思いっきり膨れっ面を作ってそっぽを向いた。


「――わかりました」


 Aはそう言うと、遠慮なく店内に入って行った。そして迷わずあんなが座るテーブル席までやってくると腰を屈め、


「とりあえず話は移動中に聞きます。帰りましょう」


 と、いとも容易くあんなを抱き上げた。いわゆる、お姫様抱っこだ。


「アホか、離せ! 痴漢変態ドスケベおたんこなす!!! 勝手に触んなカス!!!」


 あんなはAの腕の中で力の限りもがいている。水揚げされた鮭のごとき暴れっぷりだが、抱えているAの方はまるでびくともしない。青年は細身の体からは想像できない腕力とバランス感覚であんなを抱き上げたまま出口へと歩いていき、千十世がそれを暢気に口笛を吹いて囃し立てた。

 しかし、Aの前に立ちふさがる影がある。


「待ってください。まだ勘定、済んでませんけど」


 戸の前で成り行きを見守っていた、繁雄だ。いつも揶揄される鋭い眼光が一層尖って、Aに突き刺さる。しかしそこには、単に無銭飲食を警戒して、という以上の重圧が湛えられていた。それを敏感に感じ取ったのか、Aの腕の中でもがいていたあんなも動きを止めて、喉を鳴らした。


「な、なによ。さっき払ったから問題ないやろ」
「アホか。お前みたいな仕事舐めよるガキんちょから、こないな大金受け取れるわけないやろ」


 繁雄はため息混じりにそう言って少し歩くと、カウンターに置きっぱなしになっていた諭吉を手に取った。そしてまた戸の方へ戻ると、あんなの手に無理やり諭吉を握らせて突っ返す。あんながぽかんと口を開けているところに、Aが言う。


「では私がお支払いします。お幾らでしょうか?」
「は? なんでアンタが払う話になっとんのですか? うちのうどん食い散らかしたんはそこのソイツや、きっちり本人に払ってもらわな筋通らんでしょ」
「めちゃくちゃゆうてるんはそっちやんか!」そこであんなが怒鳴る。「金は受け取らん・でも払えって、どないせえっちゅうねん!!」


 この至極最もな問いかけに繁雄は、フン、と鼻を鳴らして答えた。


「昔から無銭飲食のツケは、肉体労働で払うって相場が決まってんねん」



   +++



 あんなの方は繁雄の提案をさっくりと承諾した。彼女にとっての最優先事項はとにもかくにもストライキだったので、むしろ渡りに船だったのである。連れ帰らなければならない立場にあるAは当然最初は拒否したが、「アイドルが無銭飲食なんて醜聞が立ったら元も子もないんじゃない?」という千十世のアシストも利き、渋々といった体で受け入れた。彼の出した福島行きの最終便に間に合うように、という条件を、繁雄は不機嫌面で頷いて認めた。

 無銭飲食のツケは肉体労働……主に皿洗いで支払われるのが定番であるが、よほどの箱入り育ちと見え、あんなの手際ときたらとても見れたものではなかった。五枚連続でどんぶりが割られた段階で繁雄からストップが掛かり、やむを得ず種目変更と相成った。

 というわけで、ひよっこアイドル・あんなは現在、うどん屋店主・繁雄のあとについて、うどんの配達をしているのだった。


「こんちわー宮前さーん。うどん届けにきましたー」


 慣れた口調で繁雄がインターフォンに呼びかけると、ややあって玄関が開き、宮前さんが現れた。この老婦人は繁雄の店の常連さんでもあるが、体調が思わしくない時期などはこうして出前を頼むのだ。今日も、雨が続いたからか少し元気がなさそうだ。繁雄は思わず心配になる。


「大丈夫ですか、風邪引いてるんちゃいます?」
「ありがとうね、繁雄くん」宮前さんは申し訳なさそうに苦笑した。「でも大したことあらへん。最近ちょっと寒かったからなぁ。繁雄くんとこのうどん食べてあったまったら大丈夫や」


 そう言われて、繁雄は照れくさそうに手ぬぐい越しに頭を掻いた。宮前さんはその後ろに見知らぬ姿があるのに気づき、首を傾げる。


「あら? そのお嬢ちゃんは?」
「あっ、えっと……」


 言われて、あんなはバツが悪そうに俯いてしまう。慌てて繁雄が注釈をつける。


「ああ、まぁなんというか、知り合いんとこの子で。今日だけ店の手伝いしてもろてんのですわ。ほれ、あんな、宮前さんのうどん」
「あ、う、うん」


 あんなは、停めた自転車の荷台に下げたおかもちから、そっとどんぶりを出す。落とさないよう、こぼさないよう、注意しながらどんぶりを持って、宮前さんに渡した。繁雄に代金を渡し終えた宮前さんは、あんなからどんぶりを受け取るとにっこり笑いかける。


「ありがとうね、きれいなお嬢ちゃん」
「お、おおきに」


 あんなはすっかり照れてしまって、何度も小さく頭を下げた。


「ほんなら、また明日どんぶり下げに来ます。宮前さん、お大事に」
「繁雄君もありがとうね、また明日」


 宮前さんに礼をしながら、繁雄は自転車を押して歩き始めた。慌ててあんながその後に続く。


「あと何件あんのん?」
「だいたい終わったからなぁ……あとは十四時過ぎに一件や。まだちょっと時間あんな」


 よし、と呟くと、繁雄はすぐ近くにあった児童公園に入って行った。自転車を停め、あんなにベンチにでも座って置くようにと言う。あんなは、よく意図がわからないでいたが他にすることもないのでおとなしく腰掛けていると、繁雄は公園の入り口まで戻って、自販機でジュースを買っている。小走りであんなの元まで戻ってくると、『みっくすじゅうちゅ』というパッケージの缶を彼女に渡した。


「……なにこれ?」
「何って、『みっくすじゅうちゅ』やん。あ、コーヒーのほうがよかったか?」


 繁雄に促されて受け取るあんなだが、一向に口をつけようとしない。繁雄は自分の分のプルタブに指をかけて、さっさと呷っている。そんな彼を見て、あんなはぽつりともらす。


「あんた、ウチのこと嫌いとちゃうの?」
「はぁ? 何でそないな話になんねん」
「だって、ほら、その、さっき…」


 店での威勢はどこにいったのか、あんなは言葉を濁らせる。繁雄はため息を吐いて、彼女の隣に少し間を空けて座った。晴れ渡った春の空を見上げながら、苦笑交じりに言う。


「そりゃあ、ムカつきはしたで。自分の仕事ほっぽり出した人間が、『ウチの稼いだ金や』なんて大金振りかざして偉そうな口叩きよる。俺ら毎日コツコツ働いてる人間からしたらアホ抜かせちゅうこっちゃ」
「……それは、その……ごめん」


 蚊が鳴くような声で、あんなは謝罪した。それを受けて繁雄は目をぱちくりさせて彼女を見る。


「なんや、おまえ謝れる子やったんか」
「な、なによ! ウチは自分の非はきちんと認める主義やで!」


 あんなはワッと大きな声を出した。繁雄は缶ジュースに口をつけながら、彼女にニッと笑って見せた。


「せやな。手伝いもちゃんとやれるしな……どんぶりはぎょーさん割ったけど」
「せ、せやからごめんて!」


 あんなは顔を真っ赤にして、半ば噛み付くようにいった。もっとも、繁雄の方はからかっているだけなので大して怒っているわけではない。あんなもそれに気がついて、胸を撫で下ろした。少しばかり空気が柔らかくなったのを感じ、繁雄がまた空を仰いで、何気ない風に尋ねる。


「なぁ、おまえ自分で決めたことしっかりやらな気がすまんタイプやろ? なんで仕事ほっぽりだして家出したんや。仕事、嫌いなんか?」


 繁雄の後について配達の仕事をこなそうとするあんなの姿は、不器用ながら真剣だった。そもそも、どんぶり洗いが不発に終わって止められたとき、他の仕事がないかと聞いてきたのも彼女の方だ。僅かながら一緒に時間をすごして、この少女は物事を決して投げやりにしない性格の持ち主だと、繁雄は感じ取っていたのだ。それだけに、なぜ、と疑問が浮かぶ。

 あんなは、端正な面差しを曇らせてぼそぼそと答える。


「仕事は……嫌いちゃう。っていうか、ウチがやるって決めたことやし。絶対芸能界で生き残ったるって思てるし」
「ほななんでこないなところで油売ってんねん」


 あんなは唇を何度か開けては閉ざし、を繰り返していた。どうしても口にしたくないことがあるのだが、それを話さずには先に進めない、という様子だった。少しして、観念したのか自嘲気味な声で呟く。


「店であのひょろっこいのも言うてたやろ……ウチはここ一番の勝負で、勝たれへんかった。どころか、ド滑りや。『ここまで好調が続いた朝ドラ、急転落の理由は子役か』、『全体的に小粒感は否めないが、幼少期の出来が一段と悪い』、『事務所のゴリ押し、大声大根子役あんなちゃんの明日はどっちだ』――もー散々な叩かれようやで」
「そ、それはなかなか、キツいな……」


 朝の仕込が忙しく、朝の連続テレビ小説を観ていない繁雄にはいまいちピンと来ない批難だったが、当のあんなにとっては大問題だろう。妹・和希と変わらない年齢の少女が世間から大バッシングを浴びていると思うと、やるせない気分になってしまった。

 あんなはフン、と鼻を鳴らして空を睨みつける。


「ウチかて、自分の力不足は重々わかってんねん。せやから、ここは修行せなあかんと思うんよ。なんてゆうのん、センジュツテキテッタイ? ともかく、しばらくはレッスン重点的にやって、それできっちり実力つけてからリベンジしたる――って考えてたら、あのアホマネが……!」


 あんなは手にしていた缶を感情のまま握りこんだ。勢いよく、メコッ、という音がして、繁雄は背筋に冷たいものを感じる。当のあんなは気にすることなく、碧眼にメラメラと怒りの炎をたぎらせていた。


「ウチが朝ドラ起用決まってまだ評判よかった時に、こっそりしこたま仕事取ってきて、涼しい顔して『一年先までスケジュール埋まってます』なんて抜かしよる! しかもウチの了解無しにやで??! もーちょいこっちのプラン考えろやってなるやん!!」


 あんなは、また声が大きくなっていたのに気づき、咳払いして抑えるも、頬を膨らしてそっぽを向いた。マネージャー……Aへの敵対心は一向に納まらないようだ。


「……前のマネージャーは……深亜、いうんやけどな、ウチが研修生のときからずっと一緒で、なんでも気持ちわかってくれて、いつでもウチが一番力発揮出来るようにって、めっちゃ気ィ使ってくれてん……でも、なんや外国から新しいアイドルがきて、深亜はそっちに行くことになって、代わりにあのいけすかんヤツがやってきて……アイツはただ、自分の実績のことしか考えてないねん。ウチのことなんかどないでもええねん…」
「……さよか」


 言いたいことを一通り言い終えたのか、それきりあんなは口をつぐんで、足をブラブラさせていた。せっかくのみっくすじゅうちゅは封切られることなく、側面をへこませたまま彼女の手の中にある。繁雄は自分の缶にちびちび口をつけながら、ぼうっと空を見ていた。春の空をゆっくりと、烏の親子が横切っていく。


「……なんや、贅沢な話やなぁ」
「え?」


 ぽつりと呟かれた繁雄の一言に、あんなは彼の方を見た。


「仕事が目の前にあるのに、やるかやらんか悩んでられるんやろ? めっちゃ贅沢やん、うらやましいわ」


 繁雄は飲み終わった缶ジュースを放って、見事くずかごの中に入れる。そのまま両腕を頭の後ろで組んで、だらりとベンチにもたれかかった。そして、苦笑を滲ませながらあんなを横目で見る。


「うちの店なんか、待ってるだけやお客さん来ぉへんからこうして出前して周ってんねんで?」
「あ……これ、そういうことなん?」


 あんなは驚いて、ついそう聞き返していた。繁雄はくしゃりと笑って頷く。


「こんなガキが作ったうどん、好んで食べに来る人なんてそうおらんからな。店始めたときは毎日ガラガラで、付き合いでご近所さんが来てくれるくらいなもんやったわ。そんで、出前始めたらどないやって商店街の理事長がアドバイスしてくれてな。そっから、もう必死にチラシ配りまくって、ちょっとずつ注文が入るようになって……何とかやっていけるようになったんも、つい最近のことや」
「……そう、なんや」
「せやで。でもな、まだまだ全然怖い。また注文入らんようなったらどないしよって、内心ガクブルや。せやけど、そんなんでビビっとっても一円にもならへん。それよか、一個一個目の前の仕事真剣にやって、また次に繋がるよう気張ったほうがなんぼかええやろ」
「……!」


 あんなは、何か気づいたように息を呑んだ。その様子を見て、お節介とは知りながら繁雄はもう少しだけ話を続けた。


「なぁ、芸能界ってのは厳しいとこなんやろ? そんなとこで仕事山ほど取ってくるっていうんは、大変なことなんとちゃうんか」
「それは……せやけど……」
「あのー、なんや、A? けったいな名前しとるけど、あの人ほんまにおまえが言うようなヤツか? 案外、お互い思い違いしてるとか、そういうオチちゃうんか」
「な、なによ。会ってまだ間もないのに、何でそんなことアンタにわかるんよ」
「そりゃ多少はわかるで。いかにも一晩探し回って眠れませんでしたーって目の下のクマ見たら、大体はな」
「えっ……」


 繁雄は言いたいだけ言うと、すっくと立ち上がって伸びをした。休憩は終わり、というように、自転車に向かって歩き出す。あんなは束の間むずかしい顔をしていたが、やがて缶のプルタブを空けて中身を一気に飲み干すと、くずカゴに放って繁雄の後を追った。
 


+++



 繁雄の店では、なずなが気まずい沈黙に耐えていた。

 和希も出かけているため、成り行きで店の留守を預かることになったなずなと、面白そうだからという理由で自分の店をほっぽり出してきた千十世、そしてあんなの帰りを待つAという面子が揃った店内は、始終Aが繰る電子機器の、カタカタという音に支配されている。Aはテーブル席のひとつを占領すると変わらず鉄面皮でスケジュール調整をこなし、時折電話が着信すると店外に出る。突如オフィス化したうどん屋の特異な空気感になずなは身動きできないでいたが、千十世などは暢気に漫画をめくっている。繁雄とあんなが帰ってくるまで……と思っていたなずなだったが、遂に耐え切れなくなり口を開いた。


「あ、あのう……Aさん、もうお昼ですしお腹空きません? おにぎりくらいやったら、出来ますけど……」


 店番を頼まれた際、余っている食材を昼食としてすきに使っていいと言われていたため、まずはそこからジャブを打ってみる。が、Aは視線をディスプレイから動かすことなく、


「結構です、お気遣いなく」


と、端的に返す。なんとなく予測できた返答であったが、がんばって食い下がってみるなずなである。


「でも、あんま顔色よくありませんよ? さっきからずっと働きづめですし、ちょっとくらい休憩してもバチあたらへんと思いますけど……」
「そうそう」と、ここで千十世が口を挟んできた。「担当アイドルが失踪して夜も眠れなかったのはわかるんだけどさ、ここで倒れられると迷惑だし助言は素直に聞き入れたほうがいいと思うんだよね」


 なずなもそこでようやく気づいた。Aの顔の血色がよくないと思われたのは、その両眼に青白いクマを作っているからだ。元は涼やかだろう切れ長の眼差しが、落ち窪んで見える。

 千十世はいつも通り、人の悪いニヤニヤとした笑いを浮かべながら続ける。


「あ、それとも眠れなかったのは別の理由? 外れアイドル引かされたって落ち込んでるのかな?」
「ち、ちぃくん……!」


 慌ててなずながたしなめようとしたが、勿論遅い。Aは手を止めて千十世を見ている。
 この店に現れてから一度も感情らしいものを発露しなかった青年は、このときも表情こそは崩さなかったものの、鋭い眼光にはっきりと敵意をのせて千十世を睨んでいた。千十世は面白くなってきた、と言わんばかりにますます笑いを深めていく。


「EVGプロダクションっていったら超大手だもんね? もっと他にいたでしょ、同じくらい可愛くてもうちょい演技できる子がさ。なんでそっち回してくれなかったんだ、って正直思ってるでしょ? 今回相当バッシングくらってるもんねー、マネージャーさんも火消し大変なんじゃない?」
「………」


 あからさまに挑発的な千十世の言葉に、Aはしばらく黙っていた。気弱ななずなは唐突に始まったこの攻防にアワアワと震えるばかりである。何の罪もない彼女の心を押し潰さんばかりの睨み合いが続くことおよそ三分、ようやく口を開いたのはAだった。


「今回のことは、さほど打撃ではありません。〝安平あんな〟の名前が全国区になったことを思えば、むしろお釣りがくるくらいです」
「ふぅん、炎上商法ってやつ?」


 煽る千十世に、しかしAは乗らず、視線を伏せて、


「そんなもの、すぐに鎮火します――彼女のポテンシャルは、こんなところで留まるものではありません。いずれ誰も文句が言えないほどの実力をつけて、トップに駆け昇る……私はそう確信しています」


 静かにそう言い切った。

 そこでなずなは、おや、と思う。口調こそ抑えていたが、だからこそそこに――無表情なAの、生の感情の動きが感じられたのだ。
 千十世は針に魚が掛かった漁師みたいに口の端を持ち上げる。


「それさぁ、本人にちゃんと言ってあげたら? 彼女の方はそう頑丈じゃないみたいだよ」
「……!」Aが瞠目する。「それは……あんながそう言いましたか?」
「言わなくてもわかるよ、全身で情緒不安定表現してんだもん。ま、あの年頃の子があんだけ四方八方から叩かれまくったらそうなってもおかしくはないよねぇ」


 千十世はおどけて肩を竦めて見せた。Aの方は少なからずショックを受けたようで、言葉を失くしてしまった。それを見て、ここまで何も言えないでいたなずながおずおずと口を開いた。


「あ、あのう、Aさん。ちぃくんの言ってること、うちも分かるんです。あんなちゃん、強がってるように見えたけどほんまは不安なんやないかなって……気が落ち着くまで、お仕事お休みすることは、できんのですか?」


 なずなからも同様の意見が出され、Aはここにきて初めて少しばかり顔を歪めた。それはさながら、苦痛に耐えながらなお果てのない道を往かねばならない旅人のようだった。


「――残念ながら、今ここで露出を控えてしまっては、ただ汚名ばかりが残ることになります。毎年のように新しいアイドルが出てくる中、そこから生き残り、更に長く記憶に留まる存在になるためには……進むしか、ないのです。進みながら、成長していくしか――それが、彼女の目的に適う、唯一の方策……」
「目的……あんなちゃんの?」


 なずながそう口にして初めて、Aは自分が余計なことまで喋りすぎたのを悟ったようだった。勿論、それを千十世が見逃すわけがない。早速追求しようとしたところで、


 ガララッ、


 と、タイミングよく店の戸が開いた。


「そういうことははっきり言えや、このボケマネ!」


 店内に響き渡る怒声。しかし、それは先ほどよりより澄んだ、明るい音を伴っていた。
 声の主は無論、店の戸口で仁王立ちしているあんなだ。


「な、ゆうたやろ? そういうオチやって」


 繁雄が後ろからひょっこり顔を出して、ちょっと意地悪そうな表情を作りあんなにそう言った。あんなは瞬間顔を赤くして、「うっさい!」と繁雄の足もとに軽く蹴りを入れる。そして、つんとすまし顔をすると店内に入って、Aの元までズンズン歩いて行った。


「……飛行機、もう取れてんのん?」
「え?」


 聞き返すAに、あんなは今度こそ顔を茹でタコのようにして怒鳴った。


「福島行きの飛行機! 明日からロケなんやろっ!」
「あっ……」Aはそこで初めて気づいたが、すぐ顔を正して答える。「はい、既に。十七時に伊丹空港からの便に変更しています」


 あんなは頷くと、繁雄の方に向き直った。


「よし、ほんなら最後の出前行こか! 気張るで!」
「や、もうええから」繁雄がぷらぷら手を振って言う。「さっさと帰って出かける準備してき」


 さっくりと断られ思わずズッコケそうになるあんなだったが、そこは現役子役の意地で踏ん張って見せる。


「なんでよ! 最後まできちんとせんと、うどん代払ったことにならんやろ!」
「あー、それはなんかもうこっちの気が済んだっちゅうか…」


 繁雄も苦笑いしながら店内に入り、あんなとAを見ながら言う。


「残りのツケは、おまえがトップアイドルにでもなったときに宣伝してくれたらええわ。『八奈結び商店街に美味いうどん屋があります』ってな。んで、そんときまた食いに来てくれや。そっちのマネージャーさんも一緒に」


 そこまで言われて、あんなは何も口に出来なかった。正確には、奥歯を食いしばっていなければ涙がこぼれてしまいそうで、みっともなくて堪えていたのだ。

 Aは、おもむろに立ち上がる。そしてなずなに、千十世に、そして繁雄に、それぞれ深く頭を下げた。



   +++



「アニキー! ただいまぁー!」
「せやから静かに入ってこいってゆうてるやろ」


 夕暮れ過ぎ、和希が遠足から帰ってきてまたやかましく店の戸を開けた。

 いつもならこれを怒声で迎える繁雄だが、たしなめる声もどこか上の空だ。それに気づいた和希が小走りで寄っていくと、兄が何か手にしているのが分かった。それは色紙だった。


「えっ、それサインやん! なになに、げいのーじん来たん!? うっわ、うちも見たかったのにー!」


 触ろうと手を伸ばす和希を悠々と交わしながら、繁雄はどこに置こうかと視線を巡らせつつ、笑いを浮かべながら答える。


「まぁ、また来るからそん時まで待てや。何年後か知らんけど」
「? そうなん? ……にしても、へったくそなサインやなぁ」
「あほ、これそのうちめっちゃプレミアつくで」


 折るなよ、と言われながら手渡され、和希はしげしげと色紙を眺める。
 そこには、よれた線のサインとその端の、いかにも小学生が書きました、という筆致でこう書いてある。


『しげおのうどん屋さんへ 安平あんなより』


 八奈結び商店街の上に広がる茜空を、一本の飛行機雲が東へ横切っていく。



+++++

思いついたから(以下略)

自分の中の芸能モノというと『グラビテーション』なので、本当はあんなごと誘拐された和希&美也を追ってAと千十世が高速でカーチェイスからの大炎上、って考えたんですけど、それやなればちゃうってことになって予定調和なイイハナシダナー路線になりました。

『グラビテーション』、大変オススメです。最初の4巻くらいまでは普通のBL(S気質恋愛小説家×童顔ボーカリスト)なんですが、この受けのマネージャーでKというのが出てきてからが不条理ギャグ路線にまっさかさまとなります。具体的に言うとTDLが機動隊に占拠され休園します。NYがパンダロボの急襲に遭い崩壊します。受けの愁一くんの所属事務所の本社ビルが宇宙兵器に狙撃され瓦解します。ちなみに愁一くんは物語が展開するにつれて攻めの由貴さんのためなら銃で狙撃されても生き返る等のゾンビ化が進行します。すべて事実です。こんだけめちゃくちゃやりながら実は真剣に人を愛するってテーマが貫かれてたりするので、なんかもうほんとすごいです。読んでください。

あとすごくどうでもいいんですけど、
DSC_2578.png
執筆中頭の中でずっとあんなこの格好でした。

あともっとどうでもいいんですけど、
DSC_4540.png
外国からやってきたアイドルはこいつです。

現場からは以上です。

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世津路章

Author:世津路章
一次創作小説を書いています。

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◆リンクについて
当ブログはリンクフリーです。ただし、アダルト・宗教系サイトは除きます。
◆作品
当ブログ及び小説家になろうにて、『ミス・アンダーソンの安穏なる日々』『八奈結び商店街を歩いてみれば』を連載しました。前者はおねショタ小説で、2017年7月に電撃文庫より刊行されました(無敵の女傭兵ミス・アンダーソンを抹殺すべく派遣された羊ショタ執事悪魔(レベル1)のどたばたコメディ)。後者は大阪のどっかにある商店街が舞台のなにわ人情お約束劇です。

アイコンは岡亭みゆ様にご制作頂きました。

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