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 先日、ネット上で『少女革命ウテナ』が全編公開されていたようで、Twitterの方でも結構盛り上がっていたのを見かけました。私もウテナだいすきですし、色々話題に取り上げられて嬉しく思いながら見ていたんですが、その中でひとつ気になるものがありました。

 それは、「物語の最後にウテナは王子様になった」という解釈に対して肯定派・否定派で根深い断絶があるということ。

 私自身は肯定派なんですが、昔そう口にしたところそうでないという解釈もあることを知り、そのときは「そっか、なるほどなぁ」と否定派の意見に素朴に納得していました。ですが今回改めてそうした意見を見かけたときに、「本当にそうだったんだろうか……」と疑問が頭をもたげたのです。

 そこで、どうして私は「ウテナは王子様になった」という考えを捨てることが出来ないのか、必死こいて考えました。その結果、自分なりに納得できる答えが見つかったので、せっかくだから書き留めておきたいと思います。

 最初に申し上げたいのは、私は否定派の意見を否定したいわけではありませんし、解釈としてどちらが・何が正しいと言うつもりもありません。ただ、私自身が一番ウテナを楽しめる・味わうことの出来る解釈が見つかって、こういう意見もあるよ、というのを書いておきたかっただけですので、何卒ご了承ください。(あともうわりと「それ既出……」感もあるかと思いますが目を瞑ってやってください……)


 前置きが長くなりましたが、続きは追記からになります。
 ご興味がありましたら見てやってください。

 おねショタ 小説 オリジナル 一次創作

 まず、どうして「ウテナは王子様になった」と思ったんだろう、と言うところから考え始めました。すると、どうも自分は「ウテナは自分がなろうと決心した己に辿りつけたんじゃないか」と感じていたことに気づきました。

 この、王子様、という言葉がクセものです。作中では【王子様=女性をお姫様にするための装置(男性に課せられる理想像)】(以下、この意味で使うとき【王子様】と表記)と示されています。勿論、ウテナがこの意味での【王子様】になった、と言うのは誤読だと私も思います。しかし、彼女のなりたかった、志した王子様は、果たして【王子様】なのでしょうか。

 ここで、ウテナが王子様になろうと志したきっかけを振り返ります。物語の当初、彼女は男装する理由を「幼い頃に出会った王子様に憧れて」、と説明しています。しかし、終盤(第34話『薔薇の刻印』)でその実際の理由が視聴者に提示されます。それは極めて抽象的な表現で、見る人に解釈を委ねる形で示されます(ウテナ自身も幼い頃の記憶ゆえ明確に憶えておらず、すべて思い出すのは最終決闘のとき)。

 そこでこのシーンのポイントを抽出すると、次の通りに端的なものになります(ここでは、このシーンにおける行為・心情・状況等がどういった概念や意図を含蓄するのかの考察は省略します)。

=============================

 ウテナは、魔女の烙印を押された者(【薔薇の花嫁】)が苦しみ続けている、という真実を知る。
 ウテナをそれを助けたいと願いディオスに懇願するも、誰も救うことは出来ないと告げられる。

「彼女を救うことができるのは、彼女が信じた王子様だけだ」と。

 それでも救いたいと願う彼女は、いつか自分が王子様になって、
 【薔薇の花嫁】をその苦しみから解放すると決意する。

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 つまり原初、ウテナにとって王子様になるということは、「【薔薇の花嫁】を苦しみから解放する」ということを意味していました(以下、この意味で使うときは《王子様》と表記)。

 しかし、それは作中様々な人物から言われる(時に嘲笑される)通り、不可能なことでした。だって“ウテナは女の子なので、王子様にはなれない”から。これは折に触れて提示され、ウテナに突きつけられます。

 それでも、ウテナは諦めることはありませんでした。暁生をめぐる衝突を経て、なおアンシーの傍に寄り添い、解放することを選んだウテナは、【世界の果て=【王子様】の成れの果て】との最終決闘に挑みます(第38話『世界の果て』)。最初は【世界の果て】に圧倒されるも、ウテナの心は決して折れることはなく、「僕はあなたから姫宮を解放する者になる!」と【世界の果て】に宣言します。【世界の果て】は「何を言っているのか分かっているのか」と問いますが、彼女はそれに対して敢然とこう答えます。

「僕が王子様になるってことだろ!!」

 文脈からいくと、これは作中では不可能であるとされていることです。実際、この直後にウテナはアンシーの裏切りに遭い、戦闘続行不可能になりますが、その際言われたことは

「あなたは私がすきだったころのディオスに似ている。
でもあなたは私の王子様にはなれない――女の子だから」

でした(最終話『いつか一緒に輝いて』)。ウテナが救おうとした対象であるアンシーもまた、そんなことは不可能だ、ありえない、と否定したのです(※本当は、ここのアンシーの言動と心情に関して思うことが別にあるのですが、ここでは省略します)。

 ですが、その不可能を、ウテナは可能に変えました。彼女の行動は最終的に、棺の中で眠るようにして心を閉ざすアンシーに届き、苦しみからの解放をもたらします。

 この第38話終盤~最終話なんですが、アンシーの裏切り以降のシークエンスが、第34話で幼い頃にウテナが《王子様》を志したシークエンスと似ています。

 具体的に言うと

=============================

 【魔女の烙印を押された者】=【薔薇の花嫁】が百万本の剣に射抜かれている
   ⇒ウテナ、驚愕して【王子様】に助けを求める
     ⇒出来ないと却下される

=============================

 という流れ。

 幼い日のウテナは、「不可能だ」と言われて、引き下がるしかありませんでした。しかしそのとき胸に抱いた決心をずっと忘れることなく成長した彼女は、再び同じ場面に遭遇します。ですが、助けを求めた暁生(=【世界の果て】)は聞く耳を貸さず、またディオスの幻影(=【王子様】)は諦めるよう甘言を囁きます。

 そこで、ウテナは【王子様】と決別しました。拳を作り地面を殴りつけ、指に嵌めたままの薔薇の刻印を叩きつけます。そして彼女はアンシーを救おうと満身創痍の体に鞭を打ちます。薔薇の門(=新しい世界への扉)を開け、その中に眠る力(=永遠の輝くもの、奇跡の力(ディオス曰く「それがあれば何でもできる」)を手に入れることによって。しかし頑なに開かないその門の前で、ウテナは真にアンシーを想い、涙し、その心が門を開かせました。そして、アンシーの心が眠る柩をも開き、彼女を解放することが出来たのです。

 この、似たシーンをあえて重ねることで、ビフォー・アフター的な効果が発生していると私は感じます。つまり、昔はできなかったけど、今はできた。あの時は《王子様》になれなかったけど、今度こそなれた、という具合に。

 その結果、彼女はアンシーに代わって憎悪に光る百万本の剣の標的となりシーンは終了し、エピローグに移ります。剣に貫かれる直前、力尽きて懺悔の言葉を口にします。

「やっぱり、僕は王子様になれないんだ……ごめん、姫宮、王子様ごっこになっちゃって、ごめんね……」

 エピローグでは、ウテナは理由は明らかにされていないのですが、鳳学園から消え去った、忘れられつつある存在として語られます。しかし、新たな決闘ゲームを仕組もうとする暁生に、アンシーは凛然と言い放ちます。

「あなたは何が起こったかもわからないんですね。もういいんです。あなたはこの居心地のいい柩の中で、いつまでも王子様ごっこをしてください」

 ここでアンシーは、王子様ごっこだったのはウテナではなく暁生だと突きつけるのです。
 そして、

「でも、私はいかなきゃ。あの人はいなくなってなんかいない。あなた(=暁生)の世界からいなくなっただけ。……さよなら」

 そう言って、暁生の、そして学園の許を去り、世界のどこかに確かにいるウテナを探しに外へと旅立ちます。

 これらの流れから、ウテナは誰もが出来ないとタカをくくり、見向きもしなかったアンシーの本当の心を解き放つことに成功しました。そしてそれこそが彼女が原初に志した決意、約束であり、その意味で「ウテナは《王子様》になった」と考えることは出来ると、私は思います。

 王子様、という言葉をこのように捉えるのはあくまで私の解釈です。ですが、【王子様】のままだと、上述の「僕が王子様になるってことだろ!!」というウテナの台詞が、とても悲しい、空虚なものに響きます。それはただのディオスの代替物になるという宣言に他ならないからです。しかし、《王子様》として、つまり彼女が志す、あるべき姿、として捉えると、一転、希望と決意に満ち溢れた、輝かしい台詞に感じます。誰もが諦め、不可能と嘲笑した命題に、一歩も退かないウテナの気高い心を象徴しているとすら思えます。私は、この台詞が意味のないものであるとは考えなくて、今回これだけぐだぐだ考えたというのが実のところです。

(余談ですが、《王子様》としてこの言葉を考えたとき、劇場版のラストでアンシーが言った「あなたが私の王子様だったのね」という台詞も、自然に通るな、と言うことに気がつきました。この台詞、いかにも【お姫様】が言うやつやん…ってずっと首をかしげていたんですが、解放者としての王子様、ということならアリだな、と。勿論、TV版と劇場版はまた別物なので、ここは要考察ですが……)



 それともうひとつ。【男】=【世界の果てor王子様】/【女】=【お姫様or魔女or薔薇の花嫁】という地獄のような関係性を、「いやいや! 女だって王子様になれますから! 男女関係ありませんから!」ってウテナがズドーンと打ち立てた(しかも王子様の持ち得る別の意味を提示する)ことによって、既存の枠組みが破壊された。だからこそアンシーも解放された(【魔女・薔薇の花嫁】というくびきから自由になった)のではないかな、と。

 こう思ったのは、こちらのブログ記事の考察(『内藤恵理子のブログ』様、該当記事直通)を拝読して、

================================

「『少女革命ウテナ』では/男性側がつくった「鋳型」→/それを女性が内面化していた構造/・・・を壊すことで、/ 同時に、魔女も消えるんだな。」
「女性が男性美を追求することによって初めて/非日常的で超越的な美が現出する。」

================================

 という視点に目鱗だったからです。

 つまり、女性が王子様になるということは、単に女版【王子様】になるというだけでなく、既存の「鋳型」を破壊し、その鋳型によって排斥されていた者のレッテルを剥がすという、途轍もないエネルギーを発生させることなのだ、と。それはこれまで当たり前だとされていた常識が覆されるということで、つまりそれこそが革命だったんじゃないかと、思うのです。



 
 取り留めなくなってきたので要点まとめると、

=============================

・ウテナは旧来男性に求められていた理想像としての【王子様】ではなく、彼女自身が志した姿としての《王子様》になった。

・女性が【王子様】になるということは不可能とされていた。しかしウテナは別の意味合いとしての《王子様》を掲げ、それを体現することによって革命を起こし、【世界の果て/王子様/お姫様/魔女/薔薇の花嫁】という要素で構成されていた世界のくびきを破壊した。その結果としてアンシーは解放された。

=============================

 と、いう観点から、私は「ウテナは《王子様》になった」のだと思うのでありました。


 ただ、否定派のご意見も、わかるんだ……というのも、王子様、という言葉自体、含んでいる呪詛が強すぎて、最後まで自分を見失わずに革命を起こしたウテナを呼称するに相応しくない、というのは多分に頷けるのです。ウテナは紆余曲折を経て、《天上ウテナ》というほかに掛け替えのない自己を確立した。だから王子様なんていうアリモノの概念ではなくて、彼女は彼女自身になったのだ、という解釈はすごく納得のいくものです。

 そういう、いろんな解釈があって、その全てを呑み込み、底が見えないからこそ、『少女革命ウテナ』のことをいまだに多くに人が愛しているんだと思います。自分も、ここで立ち止まることなく、まだまだもっとウテナを楽しみつくしたいと思います。

 今回はあくまで“ウテナは《王子様》になった”という解釈をシンプルに辿りたかったので、細部が甘いことは重々承知しています。拙い考察ですが、ご容赦頂ければ幸いです。


(と、書いていてふと思ったのですが、【王子様】も最初は単純に《王子様》だったんだよなぁ、と……真摯な思いやりや気高さの象徴としての《王子様》が、多数の有象無象の願望によって圧殺され、都合のいい理想像へと祭り上げられてしまったのが【王子様】。そこから更にドロップアウトしたのが【世界の果て】。って考えると暁生にも同情の気持ちが……あれ、湧いてきた気がしたけど気のせいだった……)

(って書きながら、台詞の検証のために要所要所現物を確認していたらなんかうあああああうあああああってなったのでそれはまた別に書く……すべての女の子がお姫様だった世界って……光に包まれていた世界って……それ、昭和やん……!)


おねショタ 一次創作 オリジナル ファンタジー
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◆作品
当ブログ及び小説家になろうにて、『ミス・アンダーソンの安穏なる日々』『八奈結び商店街を歩いてみれば』を連載しました。前者はおねショタ小説で、現在公開休止中です(無敵の女傭兵ミス・アンダーソンを抹殺すべく派遣された羊ショタ執事悪魔(レベル1)のどたばたコメディ)。後者は大阪のどっかにある商店街が舞台のなにわ人情お約束劇です。

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