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嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲

 二〇世紀にさよならしてまだ二十年も経っていないのに、すっかり隔世の感がありますね。世紀末、という言葉にピンとこない、という若い方も多いんじゃないでしょうか。ノストラダムス? 何それ? ってなもんで。

『オトナ帝国の逆襲』が描かれているのは、まさしくその二〇世紀/二十一世紀の文脈においてです。今よりももっと、過ぎ去った昭和という時代に対するノスタルジーが強烈に感じられ、もしかしたらまだ手が届くんじゃないか、なんていう幻想をも抱きうる、そんな当時の物語。だからこそ、ちょっと不安になって久しぶりに観てみました。中学生になったばかりの頃劇場で見たあの衝撃は、時代性のものだったのではないかと。

 結論から言って、杞憂でした。確かに、近代日本史の記念碑と言っても過言ではない本作ですが、それが名作たる所以はそこだけに留まるものではありません。『オトナ帝国の逆襲』が持つ熱量を真に体感して頂くには、もう「観て!!!!!!!」しか言えないのですが、なんとか言葉にしてお伝えしようと思います。

 物語は、春日部に《20世紀博》というテーマパークが出来たところから始まります。昭和の懐かしい日々を今一度体験できるアトラクションが揃った20世紀博に、オトナたちは大興奮。子どもたちが理解できない熱狂を以ってのめりこみます。そんなある日、オトナたちは20世紀博に連れ去られてしまうのですが、まったく抵抗せず、むしろ喜んだ様子。その中にはみさえやひろし、幼稚園の先生たちまでいて、しんちゃんたち子どもは置き去りにされてしまいます。実はこれは、二〇世紀への回帰を企てる《イエスタデイ・ワンスモア》という組織の企てた計画だったのです。しんちゃんたちはオトナたちを、二十一世紀を取り戻すことが出来るのか?!
 と、筋だけ辿ると非常に観念的な話だと思われますが、全くもってその通り。今回は世界征服を企む悪の親玉も出てこなければ、派手なバトルもない。爆発もない。悪いヤツが成敗されて、笑って大団円、という勧善懲悪は一切ありません。

 イエスタデイ・ワンスモアのリーダーであるケンとチャコは言います。全てが輝いていたあの日を取り戻したい。純粋に二十一世紀に憧れを抱けたあの時に帰りたい、と。その願望に共鳴したオトナたちは幼児退行し、イエスタデイ・ワンスモアの元へと集うのです。その過程には暴力的な描写など一切なく、本人たちはいたって平穏で、幸福そうで、何も問題がないように思われます(それを異様なものを見る目で眺める子どもたちの視点さえなければ)。

 時の流れは一方通行で、決して戻ることはない。現実に生きる誰もがそれを知っています。しかしケンは言います。「時間は逆行を始め、もう先には進まない」――彼には望んだオトナたち全員に戻りたい過去の世界を味わわせるための手段があったのです。その実態を聞くと、いかにも荒唐無稽に思えるかもしれません。しかし、作中ケンが語る計画は生々しい説得力に満ちていて、ともすればそれに乗ってみたい、という誘惑にさえ駆られます。それは子どもであることを止めなくてはならず、社会で生きていかなければならないオトナたちが抱く、〝懐かしい〟という想い。それこそが、イエスタデイ・ワンスモアの計画を支える何よりの根源だからです。

 しかし、だからこそ子どもたちは理解することが出来ません。「懐かしい、ってそんなにいいものなのかな」……冒頭、風間くんが口にする言葉は的を得ています。まだまだ前途のある子どもたちには、実感のある感覚ではありません。子どもたちとオトナたちの間には大きな溝があり、それがオトナたちの失踪に繋がっているのです。

 オトナたちがいなくなった町で、子どもたちはおびえながらも、とてもたくましく生き抜いていきます。ここが本作の非常にバランスの取れたところで、シリアスな話なのかと思いきや、ちょいちょいキレのあるクレしんらしいギャグが飛んでくるので油断なりません。特に、飲食物を探してバーに入ったかすかべ防衛隊の一幕は彼ららしい笑いを誘うやりとりで、緊迫した気持ちを和らげてくれます。と、そうこうしているうちにイエスタデイ・ワンスモアが〝子ども狩り〟を始めるのですが、しんちゃんたちかすかべ防衛隊はそれを逆手にとって20世紀博に殴り込みをかけます。この車での逃走劇が大迫力ながら緩急の利いた名ギャグシーンです。20世紀博に入ってからのしんちゃんたちの活躍については、ぜひ本編でご確認頂きたい……!

 これまでの原恵一監督作品も、物語のテンポと緩急が大変すばらしくストレスフリーに観ることができたのですが、『オトナ帝国の逆襲』ではそれが完熟の域にあります。笑ったと思ったら息を詰めるような緊張感。そこにまたすかさずギャグ。同時に、徐々に明かされる核心。それを前にした登場人物たちの選択――それが目くるめく間に流れていき、気づけば余計なことを何も考えず、画面に没頭しているのです。

 そうして繰り広げられる物語は、最後の瞬間まで心を掴んで離しません。悪臭漂う現実の二十一世紀に失望し、二〇世紀への回帰を切望するケンとチャコの想いは、先行きの見えない現代を生きるわたしたちの心にも凄まじい共感を呼び起こします。でも、だからこそ、その誘惑を振り払い、前に進むことを決断して最終決戦に挑む野原一家の姿は、鮮烈で目に焼きつくほどの希望に溢れているのです。

 この両者のぶつかり合いは、二〇世紀/二十一世紀の文脈を大きく超えて、今もなお、そして未来でも確かな光を放つものです。もう子どもに戻れない(大人にならなければならなかった)かなしみをオトナたちが抱く限り、イエスタデイ・ワンスモアの計画は心に刺さり続けるでしょう。そして、栄えある明日が見えずとも自分の人生を歩もうと、誰かが懸命に生きる限り、野原一家の抗いは輝きを失うことはないのです。〝子供向け〟(という呼称は嫌いなのですが、便宜上……)アニメ映画、という、数々の制約が課せられた中で、〝子供〟のためでなく、〝大人〟のためでなく、ただ、いいものを作ろうという制作陣の一心で『オトナ帝国の逆襲』という作品が生まれたことは、紛れもない奇跡だと思います。

 と、ごちゃごちゃ申し立てましたが、堅苦しいことは何も考えなくて大丈夫です。ただ映画を楽しもう、という軽い気持ちで観て下さい。最善最良の誠意を以って、『オトナ帝国の逆襲』はその期待に応えてくれるでしょう。




ネタバレを含む個人的なアレコレ
⇒収まりきらないんで後日別エントリー用意します。


【25周年おめでとう!】
『映画 クレヨンしんちゃん』を勝手に振り返ってオススメしてみた。

◆目次◆
(4/1以降1日1ページ分開放されます)

-まえがき-
ヘンダーランドの大冒険
暗黒タマタマ大追跡
電撃!ブタのヒヅメ大作戦
嵐を呼ぶジャングル
嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲
嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦 
伝説を呼ぶ踊れ!アミーゴ! 
嵐を呼ぶ 歌うケツだけ爆弾! 
嵐を呼ぶ 黄金のスパイ大作戦 
嵐を呼ぶ!オラと宇宙のプリンセス 
バカうまっ!B級グルメサバイバル!! 
オラの引越し物語 サボテン大襲撃 
-あとがき- 


おねショタ 創作小説 オリジナル ファンタジー
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当ブログ及び小説家になろうにて、『ミス・アンダーソンの安穏なる日々』『八奈結び商店街を歩いてみれば』を連載しました。前者はおねショタ小説で、2017年7月に電撃文庫より刊行されました(無敵の女傭兵ミス・アンダーソンを抹殺すべく派遣された羊ショタ執事悪魔(レベル1)のどたばたコメディ)。後者は大阪のどっかにある商店街が舞台のなにわ人情お約束劇です。

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