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嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦

 数々の名作を生み出してくださった原恵一監督が、最後に作った劇しん作品。公開後、「大人でも泣ける」との口コミが広がり、様々な賞を受賞し、実写版でリメイクされるほどにまで評価の高い一作です。劇しん、といえば『戦国大合戦』か『オトナ帝国』を思い浮かべる人も多いと思います。

 けど、敢えてそれを脇に置いてほしいのです。大人でも感動できる、とか、子どもに見せるべき、とか、そういうのは全部置いておいて、原監督が最後にやりきった、その全力の結晶をただそのものとして味わって頂きたいのです。

 物語は、野原一家が偶然にも同じ夢をみたことから始まります。それは戦国時代の格好をしたうつくしいお姫様が、切なげに青空を見上げている、というもの。その直後、シロが家の庭を掘り返し大穴を開けてしまうのですが、しんちゃんはそこに埋められていた木箱を見つけ出します。中に入っていたのは、しんちゃんの字で書かれた謎の書状。それを観た次の瞬間、しんちゃんは夢で見たあの光景に自分がいることに気がつくのです。そこは紛れもなく戦国時代、うろついていたしんちゃんは合戦の場に行き着き、ひょんなことからひとりのお侍をピンチから救います。彼の名前は井尻又兵衛。その縁があって、しんちゃんは又兵衛とともに行動するようになり、夢で見たあのお姫様とも出会います。彼女は廉姫と言って、又兵衛が使える春日国城主の一人娘。彼女は政情安定のため隣の大国の大名に嫁がなければならない、という状況でした。

 このあと、しんちゃんの後を追って戦国時代にタイムスリップしてきた野原一家も加わり、物語は合戦間近のきな臭さを漂わせていきます。『クレヨンしんちゃん』らしいユーモアやギャグも散りばめられているのでシリアス一辺倒にはならないのですが、徐々に濃くなっていく不穏な空気感は他作とは一線を画するものです。

 そうした、戦国時代いう過酷な背景に描かれるのが、又兵衛と廉姫の恋物語。ふたりは幼馴染で、その実お互いに想いあっているのですが、どうしようもできない身分の差に、又兵衛はその恋心をひたかくしにします。廉姫もそれに気づいていながら、たまにもどかしさに身を焼かれたように又兵衛へ気持ちをぶつけることも。中盤、ふたりの関係を如実に描き表したシークエンスがあるのですが、情景と音楽のうつくしさがあいまって、この叶わぬ恋に対して余計に切なさがこみ上げてきます。余談ですが、このシーンで流れるBGMの曲名は『青空侍』。これは廉姫が空ばかり眺めている又兵衛を、親しみをもって呼ぶあだ名です。曲調もアコースティックなギターで奏でられ、素朴ながら心優しい気持ちにさせてくれる旋律に思わず聞き惚れてしまいます。鬼の強さを持ちながら廉姫への変わらぬ想いを秘めている、又兵衛という一途な人物を、丁寧に掬い取った一曲です。ぜひ注目してみてください。

 と、このふたりの恋模様こそが作品の主軸ではありますが、そこは長年クレしんに携わってきた原監督。野原一家の活躍も忘れてはいません。特に、又兵衛としんちゃんの交流はとても心温まるものです。しんちゃんはいつものように廉姫に猛烈アピールをしていきますが、やがて又兵衛が彼女に対して抱く想いに気づき、ふたりの関係を慮るようになります。それに対して又兵衛は、決して姫に告げてはならぬ、と言い含め、しんちゃんと武士の約束を交わすのです。廉姫と春日国の命運を懸けた大合戦が始まる際も、しんちゃんは又兵衛の強さを信じて絶対勝つと疑いません。一方で、しんちゃんを追いかけて戦国時代にやってきたひろしとみさえは、春日国の辿る末路を知っており、始終暗い面持ち。この対比が、クライマックスの合戦の場面で弾け飛ぶ展開はただただ圧巻です。

 物語の筋としては、タイムスリップなどの要素はあるものの、歴史の波に引き裂かれる純朴な恋物語です。演出上でも、特別派手な配慮はされていません。それなのに、観ているだけで画面に引き込まれ、しんちゃんの、又兵衛の、廉姫の、野原一家の、それぞれの想いに同調し、いつの間にかのめりこんでしまいます。それは、ひたすら丁寧に、真摯に場面場面が紡がれて、誠実に積み重ねられているからです。そして、その過程に込めた制作陣の、「いい作品を作るんだ!」という熱気に知らず引き込まれているからなのです。そこには観客を感動させようという目論見はなく、ただ真っ向勝負で挑んでくる気迫があります。最後の最後だからそこ、当時の渾身の力をぶつけてきた原監督の想いが、まっすぐに胸を貫いていくのです。

 合戦の勝敗は? どうして野原一家はタイムスリップしなければならなかったのか? その答も、勿論用意されています。だけど、まずは心静かに、戦国の世の天正二年を駆け抜けた彼らの生き様を、ゆっくりと味わうお気持ちでご覧下さい。


以下、ネタバレを含む個人的なあれこれ(反転)

 あまりにも他作(オトナ帝国を除く)とギャップがあるので色々言われますが、やっぱり首の皮一枚でこれは劇しんだったと強く思うし、作品そのもののクオリティを否定することには繋がらないです。制作陣がじぶんのやりたいことを、極限の誠実さで描ききった、その結果だもの。それに、「次が最後だ」「次が終われば後はない」とずっと自分に言い聞かせて、それまで5年間も劇場版の監督やって、あまつさえテレビ版の監督もやった原さんが、最後の一回で思う存分自分のやりたい放題やってできた作品なんだ、って思うと、涙こそすれ批難なんてできないじゃん……いち劇しんファンとしては……。

 劇しんでやる必要あったの、といわれれば、必要はなかったと思うけど、それでもやっぱりこれは劇しんなんだよ……主軸は勿論又兵衛と廉姫だけど、その最後のひとときを得るためには野原一家の介入が不可欠で、そこは物語と分離できないので、それを考えると劇しんなんだよ……。

 と、周りで囁かれるあれこれに対しての悶々を書くとそんな感じなんだけど、もういいからとりあえず現物を観ろ。なにも言えんくなるから。しか言えない、究極的に。それほどまでに表現の極地だ。派手な要素はなくてもあそこまで描けるのだ。

 又兵衛が死ぬまでの物語だからやっぱり全体として重いんだけど、要所要所に救いのような一幕が挟まれていて、その緩急が絶妙ですよねホント……特に印象に残っているのが、合戦中、廉姫の作った握り飯を期せずして又兵衛が食べているところ。表立って添い遂げることは出来なくても、確かに心は通じ合ってるんだ、っていうのがぐっと伝わってきてすきです。

 又兵衛は死ななきゃならなかったのか、とも考えるんだけど、やはりあれはあの結末しかなかった。そうでなければ、野原一家がタイムスリップしたことへの帳尻が合わなくなるから。他の作品のノリだったらアリかもしれないけど、この作品ではやってはいけなかった。あえて容易なハッピーエンドを排したこの姿勢こそ、制作陣の作品に対する誠実さを物語ってる、と思うのです。

 余談ですが、原監督が当初副題に『青空侍』とつけていたけど却下され、後に受賞した記念に本作のDVDを特別に作って、その際にやっと『青空侍』と添えることが出来た、というエピソードがあるそうです。原監督がどれだけの想いをこの作品にこめたのか、その底深さを如実に感じられるお話で、色々考えさせられました。



【25周年おめでとう!】
『映画 クレヨンしんちゃん』を勝手に振り返ってオススメしてみた。

◆目次◆
(4/1以降1日1ページ分開放されます)

-まえがき-
ヘンダーランドの大冒険
暗黒タマタマ大追跡
電撃!ブタのヒヅメ大作戦
嵐を呼ぶジャングル
嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲
嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦 
伝説を呼ぶ踊れ!アミーゴ! 
嵐を呼ぶ 歌うケツだけ爆弾! 
嵐を呼ぶ 黄金のスパイ大作戦 
嵐を呼ぶ!オラと宇宙のプリンセス 
バカうまっ!B級グルメサバイバル!! 
オラの引越し物語 サボテン大襲撃 
-あとがき- 


おねショタ 創作小説 オリジナル ファンタジー
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当ブログ及び小説家になろうにて、『ミス・アンダーソンの安穏なる日々』『八奈結び商店街を歩いてみれば』を連載しました。前者はおねショタ小説で、2017年7月に電撃文庫より刊行されました(無敵の女傭兵ミス・アンダーソンを抹殺すべく派遣された羊ショタ執事悪魔(レベル1)のどたばたコメディ)。後者は大阪のどっかにある商店街が舞台のなにわ人情お約束劇です。

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