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口絵1 

『ミス・アンダーソンの安穏なる日々』

 七夕短編連作

『あなたの願いが叶うころ ~イグネットの場合~』


既読の方向けですが、
 『ミス・アンダーソンの安穏なる日々 小さな魔族の騎士執事』の重大なネタバレは含みません。
 アーティとアンダーソン以外にどんなキャラクターがいるのか試し読みしたいという方も、ぜひどうぞ!

それでは、本編は追記から。

おねショタ 一次創作 ファンタジー
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 飛沫ヶ刻の第二月、第三週の休息日は《金銀環の祈りの日》とされています。

 この時期になると夜空には星々が盛大にその輝きを冴え渡らせて、まるで月の周りを太陽の光が瞬いてるかと見まごう程になります。そこで人々はいつしか、互い違いに九天を巡りゆく金環と銀環の再会を願って、儀式を執り行うようになりました。金環と銀環の分かたれたるこそ世の騒乱の起源――創世記の時代に生きた太古の人類は、そのように考えていたのです。

 もっとも、それからざっと五千年も経っているものですから、儀式の元来の意味合いも薄れ、もっと陽気で、もっと気軽な、戯れのような祭日へと変貌しています。どこをどう歪曲して伝わったのか、願いを書いたカードを窓辺に吊るして星空の光に晒しておけば、その願いが叶う、というのが今日の《金銀環の祈りの日》です。

 さて、人々はどんな願いを託しているのでしょうか。ちょっと覗いて見ましょう。



「イグネットのバカっ!! こんなに吊るしたらわたしとブレイズが飾れないんだから!!」
「へーんだ、こういうのは早い者勝ちだろー? やーい、のろまのウェンディー」


 木漏れ日の家の子ども部屋では、就寝前だというのにやっぱり大騒ぎです。原因は、イグネットが窓辺一杯に自分の願い事カードを吊るしてしまっているから。どこからこれだけの願い事を引っ張ってきたのか、というほど一部の隙なく吊るされており、これ以上はぶら下げる余裕はありません。

 みんなでパジャマに着替えた後、ウェンディがお手洗いを済ませに行ったほんの一瞬を狙っての犯行です。かねてからの計画を窺わせる手際のよさですね。


「ちょっとぐらいスペース開けないとダメなんだから! どうせ大した願い事じゃないんだからっ!」
「バカっ、やめろって! どれもめちゃくちゃ重要なヤツなんだって!」


 怒り心頭のウェンディが実力行使で外しにかかるのをイグネットは止めようとする……のですが、その肩を掴まれ引き止められます。呆れ顔でふたりのやり取りを見ていたブレイズです。


「ウェンディ、今のうちに外しちゃいなよ」
「ブレイズ、このっ、裏切り者っ!」
「僕は元から味方になった憶えはないよ」


 はぁ、とため息を吐くブレイズは、自分の学習机の方を見ました。勤勉な彼は自主勉強に励んでいたのですが、ふたりがあまりにも騒がしくて続行できず、やむを得ず仲裁に入ったのです。

 イグネットがあまりに暴れるので、イグネットは仕方なく後ろから羽交い絞めにしました。その隙に、ウェンディが椅子の上に立って撤去作業に入ります。


「ふーんだ、どうせ大したこと書いてないんだから」


 カーテンレールに結ばれたカードの紐をぶちぶち引き抜きながら、その中のいくつかをウェンディは堂々と覗き見ました。カードは金銀環を模した円型のものをふたつに折りたたむのが通例で、イグネットのものもご他聞に漏れません。


「あっ、バカ! 人の願い事見るなんてヒキョーだぞ!!」
「……ナニこれ! 『新しいボールが欲しい』、『明日の晩飯はステーキがいい』、『海に行きたい』、全然重要でもなんでもないんだからっ!」


 そんなもので窓辺を独り占めした彼にますますボルテージが上がって、容赦なくカードをむしりとっていくウェンディです。一方のイグネットは儚く散っていく己の願い事を涙ながらに惜しんでいます。どんどんテンションが下がって無表情になるブレイズと好対照です。

 と、イグネットが吊るしたカードが残り僅かになったころ、ウェンディはふと手にしたそれが別のものとは違う色をしていることに気がつきました。よく見ると、ちょっと高級な紙のようです。不思議に思った彼女は、そっと中を開いて見ました。そして、そこに書いてある一文を見て、憑き物が落ちたように瞬きをしました。


「…………」
「な、なんだよ」
「ウェンディ、どうしたの?」


 いきなり様子が変わった彼女に、イグネットもブレイズも首を傾げました。やがてウェンディは何も言わないまま椅子を飛び降り、ウサギが跳ねるように部屋を出て行ってしまいました。手から、最後に持っていたカードを零れ落として。


「……? なんだアイツ、突然」
「このカードを見たから、かな」


 イグネットを解放したブレイズは、ウェンディが落としたカードを拾い上げて同じように中を覗き見ました。ブレイズはそこで思い当たったようで、


「あああっ! み、見るなっ!!」


 と、止めに入ったのですが、時既に遅し。


『できるだけ長く、みんなといっしょにいられますように』


 他のカードの書き散らしたような文字とは異なり、その願いは、下手な字ながら丁寧に、心をこめて綴られたのがよくわかる筆致でした。

 ブレイズが顔を上げると、イグネットは頭を真っ赤にして、そっぽ向いて床を蹴りつけています。

 そう、ここは孤児院。居場所のない子どもたちに与えられた場所。いられる時間の限られた家庭なのです。

 大樹君国では満十六歳で成人とみなされ、それまでに自分の進路をどうするか考えなければなりません。木漏れ日の家の子ども達は通例、どこか住み込みで働ける口を探し、成人前から見習いとして働き始めます。ブレイズのように、官僚登用試験に向けて勉学に励む子もいます。イグネットとウェンディは一〇を超えたばかりなのでまだしばらくの猶予はありますが、毎日懸命に机に向かうブレイズを見ていると、嫌でも考えずにはいられないのでしょう。そうした想いが、イグネットに筆をとらせたのかもしれません。

 ブレイズはそこで、ようやく合点がいきました。


「これがバレないようにって、こんなにたくさん吊るしたの?」
「……! 知らねっ」


 ふてくされ、イグネットは自分のベッドに飛び込み、枕に顔をうずめます。やれやれ、と苦笑して、ブレイズは窓辺に歩み寄りました。そして、手にしているカードをつきのよく見える場所に吊るし直してやりました。


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next ⇒ ウェンディの場合


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◆リンクについて
当ブログはリンクフリーです。ただし、アダルト・宗教系サイトは除きます。
◆作品
当ブログ及び小説家になろうにて、『ミス・アンダーソンの安穏なる日々』『八奈結び商店街を歩いてみれば』を連載しました。前者はおねショタ小説で、2017年7月に電撃文庫より刊行されました(無敵の女傭兵ミス・アンダーソンを抹殺すべく派遣された羊ショタ執事悪魔(レベル1)のどたばたコメディ)。後者は大阪のどっかにある商店街が舞台のなにわ人情お約束劇です。

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