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口絵1 

『ミス・アンダーソンの安穏なる日々』

 七夕短編連作

『あなたの願いが叶うころ ~セルシアの場合~』


既読の方向けですが、
 『ミス・アンダーソンの安穏なる日々 小さな魔族の騎士執事』の重大なネタバレは含みません。
 アーティとアンダーソン以外にどんなキャラクターがいるのか試し読みしたいという方も、ぜひどうぞ!

それでは、本編は追記から。

おねショタ 一次創作 ファンタジー
 

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 ウェンディをブレイズに任せて子ども部屋を後にしたセルシアは、食堂権談話室に戻って針仕事の道具を片付けました。そして、昼間子どもたちが書いた円型のカードを出してきて、テーブルにつきます。そしてしばらくペンの先端を唇に当てて考え込んでいましたが、ぽつりと零します。


「そうよねぇ……本当に叶えてほしいことは、大抵いつも叶わないのよねぇ……」


 子ども室に入る前、彼女の耳はブレイズの呟きを拾ったのです。元気にあちらこちらをはしゃぎまわるイグネットとウェンディとは対照的に、歳の割りに落ち着きすぎたきらいのあるブレイズらしい言葉でした。だからこそ彼は何かに頼らず自分の手で願いを実現しようとしているのだし、そうした姿勢をセルシアはいつもあたたかく見守ってきたのでした。

 でも、折角の《金銀環の祈りの日》なのです。ちょっとくらい、乗ってみたってバチは当たりません。そこで、自分も願い事しそびれていたセルシアも、ブレイズの分までこの機会にあやかっておこうとカードと筆記具を引っ張り出してきたのでした。

 階段の上、子ども部屋は静まり返っており、木漏れ日の家は宵闇の静けさに包まれていました。そこに何度かセルシアのささやかな唸り声が響きます。少しの間そうやって悶々としていたのですが、やがて彼女はふっと笑って、すらすらとペンを走らせます。小さなカードの中、まめまめしい彼女の字は、願いを連ねていきます。


『イグネットの野菜嫌いがなおりますように』
『ウェンディが悪夢を見ませんように』
『ブレイズが無理せずがんばり続けられますように』
『ダグリズのケンカっ早さがどうにかなりますように』


 そして、最後に残った一行分の空白に、


『アンナとアーティくんが、まだしばらくああしてられますように』


 と、しっかりとした筆圧で書き付けて、ペンを置きました。

 丁寧に二つ折りにすると、傍らに置いてあったウェンディのカードとともに持ち上げて、窓辺まで歩み寄ります。用意してあった紐でカーテンレールにそれぞれ吊り下げると、明るい銀の月光に晒されて、セルシアはなにか神聖なものを見たような気持ちになりました。


「そのために、また明日からひとつずつ、ね」


 窓の外の夜空を見上げて、セルシアは微笑みました。ひとつずつ積み上げていけば、あるいは本当に叶って欲しい願い事も叶う日が来るかもしれない。そうして彼女は安穏な日々を、精一杯楽しむのです。

 小さくあくびして、セルシアは自室に向います。その背を月光は、恭しく照らしていました。


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next ⇒ ダグリズの場合


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◆作品
当ブログ及び小説家になろうにて、『ミス・アンダーソンの安穏なる日々』『八奈結び商店街を歩いてみれば』を連載しました。前者はおねショタ小説で、2017年7月に電撃文庫より刊行されました(無敵の女傭兵ミス・アンダーソンを抹殺すべく派遣された羊ショタ執事悪魔(レベル1)のどたばたコメディ)。後者は大阪のどっかにある商店街が舞台のなにわ人情お約束劇です。

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