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以前出した『かのじょとおなじあしたのこないきょう。』と
『かのじょとおなじあしたをえらぶきょう。』を一冊でまとめた青春レズ小説。

斉藤朱梨は陸上部のエース。いつも自分が一番と豪語する派手好き。
多嶋月音は陸上部のマネージャー。普通なのがコンプレックスな苦労性。
小さい時からいっしょだった二人だけど、
ある出来事がきっかけでその関係が変わっていって…?


【中編/約43,000字】
【A5|100円|52P|頒布終了】

※※追記からお試しでお読みいただけます※※
 パァン!

 乾いた音が、青空にひとつ、響く。

 そうして幕が切られた決戦を、観客席にいる誰もが緊張しながら見つめてる。インターハイ県予選、陸上競技の部100メートル走。その決着はあっという間につく。そのわずかな時間に、見守る側の人間はありったけの想いをこめて、声援を飛ばす。一瞬先の未来がどうなっているか、知ることを少し怖く感じながら。

 でも彼女には、そんな必要はない。

 スタートしてたった5秒、それだけで、左右に並ぶライバルをグンと追い越し、先頭に現れる一人の少女の姿――彼女はそれを見つけるだけでいい。

 そしてそれが見えれば彼女には、言葉を漏らす余裕もなくなる。

 瞬きすら、できなくなる。

 目を一度閉じるたび、少女の疾走はゴールに近づく――終わりへと向かう。その一瞬一瞬を見逃すことは、彼女にはできない。
 

 小柄な体で他の誰より力強く大地を蹴り。

 腕を振りぬく動作は無駄ひとつなく滑らかで。

 ポニーテールの黒髪が太陽にきらきら輝き。


 それで楽しそうに、笑って。


 そして、少女はいつものように、真っ先にゴールテープに飛び込んだ。

 ゴール地点より少し先まで走りぬいて、二・三歩進み、そこで止まった。膝に手を置いて、腰をかがめている。そうして呼吸を整えていた。

 しかしすぐに、再び直立する。

 それもいつもと変わらない。そのまま少女――斉藤朱梨は右腕を、空に向かって真っすぐ伸ばす。ぴん、と人差し指をまっすぐ指して、朱梨は叫ぶ。



「ああああああぁぁぁいむなああああぁんばああああぁわあああああん!」



 そしてそれを見た彼女もいつものように思うのである。

 あれは、地軸の先端だ。


========================================


 私、多嶋月音は実につまんない人間だと思う。

 世の中の中二女子の平均をとったらきっと私になるんだろうな、なんて、自分で思う。背は低いし、顔は不細工でもなければ美人でもなく、少し低い鼻くらいしか特徴がない。少しクセがあって広がりやすい髪は、伸ばすのが面倒でいつも肩より少し上くらいで切っている。成績は中の中だし体育は苦手。だから、陸上部のマネージャーなんてやっている。

 自分についていろいろ並べていくと、あまりにも〝普通〟なことが多すぎて、ときどきため息ついちゃうくらいだ。それでも自分のこと嫌いにならずにこの十四年間生きてきたのは、ちょっとほめてあげたい。

 とはいえ、学食の券売機とにらめっこしてはや十分、いまだに何を食べるか決めかねているこの優柔不断加減には、我ながらちょっと嫌気がさしてるんだけど。


(…どうしよう)

 この短い間に、何回心の中でそう思ったんだよ自分! と、頭の片隅ですかさずツッコミが入る。でも、私の目は二つのボタンの間をさっきっから飽きることなく行ったり来たりしている。

 ひとつは甘口マーボー豆腐定食。

 もうひとつはやわらかスペシャルひと口ステーキ定食。

 早く決めなきゃ…とは思うけど、まだ人が少なくひっそりしている学食が、『いいんだよ、ゆっくり悩んで』って言ってるような気がして、私は延々と決めかねている。

 …ううう、本当は今日はマーボーって心に決めてたのに! それなのに、授業が早く終わって楽しみにしながら食堂に来たら、今日に限ってスペシャルメニューのひと口ステーキ定食のボタンが、売切れにならずに光ってる!

 四時間目の終わりから、口の中はもうマーボーで決まってたのに、なんで今日に限って売り切れてないの、ひと口ステーキ定食…! ひと口ステーキ定食といえばうちの学食では人気メニューランキング一位をいまだかつて譲り渡したことがない究極の一品…! しかも一日限定十食だから、昼休み開始早々になくなっちゃって、めったに食べることのできない幻のメニュー…!

 意識しないうちに、私の右手の人差し指が、吸い寄せられたようにひと口ステーキのボタンに伸びていく…! でも、ふと頭の中でもう一人の私がこう囁くのだ…いいのか、それで…お前の口の中は何の味になっているのか、よく考えてみろ…!


「あー…もー…どーしよー…」


 と、煮え切らなくなってついに思わず口から言葉が出てくる。

 もちろん誰かの答えを求めて言ったわけじゃない。自然と、ポロっと出た一言だった。が、


 ピッ


 と、私の言葉に応えるように、券売機が鳴った。その音はボタンを押したときに鳴るヤツで、次の瞬間にはガコン、と大げさに食券が出てきてて、でも私の指はボタンなんて押してなくて、よく見たら左の方から誰かの腕が伸びてきてて…


「悩みすぎだ、ばーか」


 その誰かは、遠慮のない罵声をいきなり浴びせてきた。

 そしてそいつ――斉藤朱梨は券売機の取り出し口からチケットを摘み、私の目の前にぴら理と差し出す。

 そこに書かれていた文字は、マーボー定食でもひと口ステーキ定食でもない――特性沖縄ゴーヤーチャンプルー定食、だった。


「朱梨、あんた…それ、私が迷ってたメニューと違うってわかっててやったでしょ!」


 しかも私が苦いの苦手だって、幼稚園のころから知ってるくせに!

 と、つい大きな声を出してしまった私をしり目に、朱梨はニヤニヤ笑いながら、


「うん」


 とあっさり答えて、食券をぱっと放した。

 慌てて私がキャッチしている傍で、朱梨は券売機に小銭を入れて、さっさとボタンを押す。サバの味噌煮定食。週に二、三回は食べる、朱梨のすきなメニュー。


「それ気になってたけど、アタシ今日はもうサバ味噌の口だったんだよね。だから後でひと口よこせよ」


 そう言ってニヤニヤ笑いはそのままに、さらさらした長い髪を揺らして、すたすた歩いて行ってしまう。

 ~~~~~~~~! もう!


「バカッ! 待ちなさいよ、朱梨っ!」


 当然、私のそんな抗議なんて聞いちゃいない。

 まったく、斉藤朱梨はいっつもこんなだ。



⇒⇒⇒本編に続く
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一次創作小説を書いています。

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当ブログ及び小説家になろうにて、『ミス・アンダーソンの安穏なる日々』『八奈結び商店街を歩いてみれば』を連載しました。前者はおねショタ小説で、現在公開休止中です(無敵の女傭兵ミス・アンダーソンを抹殺すべく派遣された羊ショタ執事悪魔(レベル1)のどたばたコメディ)。後者は大阪のどっかにある商店街が舞台のなにわ人情お約束劇です。

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