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やなむすびドーナツ 表紙

『八奈結び商店街を歩いてみれば
 -豆乳ドーナツをめぐるじんぎなきたたかい-』

第二回文学フリマ大阪【こんぽた。|D-32】で新刊頒布です!

【コピー文庫判|FREE!|30~50P予定 頒布終了※※ ※総集編には収録予定】


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大阪のどっかにある《八奈結び商店街》は
いつもなんやかんやでさわがしい。

親を亡くしたうどん屋の繁雄に妹の和希。
その幼馴染の千十世・美也の兄妹に、なずな。
商店街に住む5人の少年少女は、今日もおおわらわ。

今回は元プロレスラー夫婦の豆腐屋さんでひと悶着。
はたして豆乳ドーナツは無事にメニュー入りなるか?

なにわ人情お約束劇、文フリ大阪だけの特別編です。

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表紙素材ご提供
彩 雅介様【698864】、D-Dragon様【518575】


※※追記からお試しで冒頭のの一部 をお読みいただけます※※
 秋茜が一匹、繁雄の隣を通り過ぎた。

 すい、すい、と軽やかに飛んでいくその姿に、繁雄は思わず足を止める。そして顎から滴る汗を、左手の甲で拭った。全く、九月も半ばになるというのに、八奈結びでは暑さの失せる気配がない。

 だがそれでも、盛夏は過ぎたのであろう。いつも決まって十四時には出前の皿を下げに出かける繁雄は、陽の光が投げかけてくる熱が日ごと少しずつ和らいでいるのを感じ取っていた。

 が、暑いもんは暑いのである。ふー、とため息を吐いてから、繁雄はおかもちを右から左に持ち替えて、また歩き出そうとした。


「あらぁ、シゲちゃんやないの」


 その時、右手の商店から声を掛けられた。

 駄菓子屋の小東さん。奥さんの方のサナエさんだ。夫婦そろって老齢だが、足腰はしゃんとしていて、八奈結びの悪ガキども毎日相手にしてもお元気そのものである。繁雄も昔はよく通ったし、今でも妹の和希を連れて時折訪れる。小東さん方が、繁雄のうどん屋に来てくれることもある。


「こんちゃっす、今日も暑いすね」
「ホンマねぇ、ええ加減にしてほしいわ」


 サナエさんはハァ、とため息を吐きながら、手にしていたバケツと柄杓で水撒きを始める。そのまま、ひとなつっこい笑顔を繁雄に向けてくる。


「そういえば、アレ。いつまで出してるん? 夏限定やゆうてたけど」
「ああ、夏みかんとポン酢のうどんすか?」


 夏バテ防止、と謳って夏季限定として打ち出したサラダ感覚のうどんである。そういえば、小東さんご夫婦はよく頼んでくれとったなぁ、と繁雄は思い出した。

 ピシャ、ピシャ、と涼しげな水撒きの音にのせて、サナエさんは続ける。


「おとうちゃんもあれならよう腹に入る、ゆうてね。もうしばらくあると嬉しいんやけど」
「ホンマですか? ほしたら涼しなるまで続けますわ」


 なるべく表に出さないようにはしたが、繁雄は内心喜びで叫びだしたい気持ちだった。親が亡くなり、高校に行かずその跡を継いでうどん屋になった繁雄にとって、今は毎日が試行錯誤の連続である。お客さんの温かい言葉はなにより活力になるし、それがお世話になっている小東さん夫婦からならなおのことである。

 そんな繁雄を見てサナエさんは微笑むと、そや、と言って、バケツを脇に置き店の中に入っていった。そして冷蔵ケースの中から、セットになってる紙パックを一ダース、持ってくる。


「こんな暑い中ご苦労さん。ほれ、コーヒー牛乳や。持ってき」
「え! いや、貰えませんわそんなん!」


 繁雄は手をパタパタ振った。だが勿論サナエさんは問題にしない。なんて言ったって、この八奈結び商店街で昔から子どもを相手に商売してきた、大阪のオバちゃんである。押しの強さは天下一品だ。


「そんなんゆうとったら肝心なときに嫁はんもスルッと逃してまうがな! こういうときはチャチャッともらっとくんがエエ男やで!」
「なんなんすかその理屈!」


 いやいやいや! とツッコむ繁雄の右手に、ちゃっかりコーヒー牛乳×十二本セットを持たせるサナエさんであった。こうなってしまってはもらわないわけにはいかない。繁雄は照れて俯いた。


「その…おおきに」
「せやせや、最初からそうゆうたらええねん」


 ふふん、と鼻高々なサナエさんを見て、繁雄もくしゃりと笑った。
 だが、その安穏とした空気をぶち壊す、騒々しい足音がする。


「し、し、繁雄くん! ここおったんか!」
「北村さん? どないしたんすかそんな慌てて…!」


 繁雄の店の常連客にして、文具店を営む北村さんだった。人がいい笑顔に定評がある北村さんは、この時は血相を変えて繁雄の前に駆け込んできた。


「ちょっと来てくれんか、一大事なんや…!」
「わ、わかりました!」


 この北村さんの様子は、ただ事でない――繁雄も息を呑んで、来た道を戻る彼の後を追う。が、右手にコーヒー牛乳、左手におかもちを持っているものだから、なんだかまるでぶかっこうである。

 あ、と気づき、走りながら繁雄は振り返った。


「ほなサナエさん、また! あの…ホンマおおきに!」
「おう、気ぃつけてなー」


 奥さんは緩く手を振って、また水撒きに戻った。


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 繁雄が北村さんに連れられてやってきたのは、存外近くだった。

 うどん屋に帰る方とは逆の角に折れて、すぐの場所。その辺りには生鮮食品を扱う店が並んでいて、繁雄もよくお世話になっている。そんなところでいったい何が…という繁雄の疑問は、わずか一秒で解決した。


「……あのー、角井さん。何やってんすか?」


 思わず繁雄はそう呟いていた。

 騒動の元は一目瞭然だった。『〝おいしく新鮮! いいとうふ〟――角井豆腐店』の前に仁王立ちになる店主・角井さん。それに対峙する妻・みさこさん。両者のにらみ合いはいつから続いているのか、緊迫した空気が漂っている。周りの野次馬も、固唾をのんで見守っている。


(確かにこりゃ、ただ事やないな……)


 到着したばかりの繁雄もおかもちを、そしてその上にコーヒー牛乳を置き、ゴクリと喉を鳴らした。角井さん夫婦はどちらも元プロレスラーという異色の豆腐屋さんだ。ふたりの今なお逞しい腕から作られる豆腐は、繊細な舌触りと豆乳の味が評判を呼んでいるが、その力がひとたび人間相手に向けられればどうなることか――。

 この時交錯する二人の視線は、デス・マッチに臨む者たちのそれであった。どちらかがリングを降りるまで、あらゆる手段を行使し、闘争する――そういう者たちの――…。

 しかし同時にこの夫婦は、仲睦まじいことでも有名である。いったい何がふたりの間にあったのか…ともかく聞いてみようと、意を決して一歩前に出た、その時。


「だからァ! 置かんゆうとるやろがァ!!」


 ダン! と地を踏み、角井さんの怒声が弾けた。
 ビリビリと空気を震わせるほどの気迫にギャラリーは身を小さくしたが、みさこさんは動じず、


「ちょっとは話聞けやァ! このアホんだらァッ!!」


 負けじと猛る。
 そのあまりのプレッシャー、まさに一触即発。なんとか二人を止めようと繁雄は走って近寄ろうとした。が、



「やからこの豆乳ドーナツ店に置いたらバカ売れやぁゆうてんねん!」
「せやからんな女々しいもん店におけるかぁゆうてんねん!」



 とふたりが言い合いだしたので、ずしゃあ、とズッコケた。


【A6|FREE!|30~50P予定 ※頒布終了※ ※総集編には収録予定】



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◆作品
当ブログ及び小説家になろうにて、『ミス・アンダーソンの安穏なる日々』『八奈結び商店街を歩いてみれば』を連載しました。前者はおねショタ小説で、現在公開休止中です(無敵の女傭兵ミス・アンダーソンを抹殺すべく派遣された羊ショタ執事悪魔(レベル1)のどたばたコメディ)。後者は大阪のどっかにある商店街が舞台のなにわ人情お約束劇です。

アイコンは岡亭みゆ様にご制作頂きました。

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