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『その水に口をつけたW氏の顛末』

COMITIA110【の13a】、第十九回文学フリマ【B-51】にて新刊発行です!

【A6|32p|\100 
COMITIA110・第十九回文学フリマにて初回発行、以降COMITIA・文学フリマ等で頒布】


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「だからあたしは水になるの。
水になって、H2Oになって、その小さな小さな分子の、その一部になるの。
あたしの存在は極限にまで希釈され、すべてのものにいきわたるの。
あたしは誰のものでもあって、誰のものでもなくなるの」

冴えない中年用務員・W氏は或る晩、プールに忍び込み水中で踊る少女と出逢う。
その舞踏のうつくしさに圧倒されたW氏は彼女に懇願しその観客者たる資格を得る。
それからふたりには奇妙な交流が芽生えるが――

『少女+キーアイテム+※※欲求』をコンセプトにお贈りする
《報酬系》シリーズ第二弾。
独占せずにはいられない、僕らのための妄想譚。

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表紙素材ご提供
彩 雅介様【698864】、minato様【3412863】、marina様【3090998】
※【】内はいずれもpixivID

※※追記からお試しで冒頭のの一部 をお読みいただけます※※
 そう言えば聞いたかい、W氏のこと。

 愛すべきあのW氏の姿をここしばらく見かけないことに君も気づいていただろう、彼ったらどうなっていたと思う?

 ――ああ、よそう。こんな無粋な話し方じゃあ、彼が報われない。僕と君とは順を追って、W氏の辿った顛末を丁寧に追想すべきだ。それでこそ、あの滑稽で哀れな男の冥福を祈ってやれるってもんだ。

 おっと。つい、口が滑ったね。君も興が乗ってきたって顔をしているよ。

 それでも、始めから話すことにしよう。
 そう、季節は秋。夜風はとうに冷たくなった、神様のいない月のこと――。


※※※


 W氏はその晩も、用務員室から出て校舎の見回りをしていた。

 非常灯が微かに明滅するばかりの廊下はいかにも陰気くさく、でもW氏の足取りはどうでもよさそうな速度だった。手にした懐中電灯も教室に向けられることはなく、廊下の向こう側をぽつねんと照らしている。たとえば生徒がいたずらしに机の影に隠れていたとしても、彼には本当にどうでもよかったのさ。

 そもそもこのW氏、学校というものがすきじゃない。生徒として通っていた昔も、用務員なんて職に就いた今も、その思いだけは一貫していた。世間一般が要求する〝人並み〟の能力も容姿も持ち合わせない彼にとって、学校というのは劣等感を植え付けてくる気色の悪い種苗工場に過ぎなかった。

 それでもこんな職に就いたのは、母親の強制があったからだ。「おまえみたいな人間はどうせまともな仕事ができないのだから、公務員になって一生しがみついておけ」などに代表される人格無視の度重なる罵倒――それから逃れるために家を出たはずだったが、辿りついた先が住込み可能な用務員職であったときにはさすがに自嘲した。

 そうしてW氏は、とりとめもなく鬱屈とした毎日を送っていた。学校という限られた範囲を亡霊のようにさまよい、休みの日にはパチスロでスるだけの生活。仲間と酒を飲めばその時ばかりは憂さを忘れるが、帰路につき一人になると決まって耳元で母が囁く。


「おまえみたいな人間はどうせ」。「ろくでなしの醜男だから誰にも必要とされない」。「愛されない」。「面倒をみてやっているあたしにひたすら感謝しろ――」。


 洗脳染みた言葉の数々だ、と家を出た今なら思うことができる。が、それでも母の呪怨は、もはや血液の成分のひとつになって、今もW氏の身体中を駆け巡っていた。

 子は親の物。W氏はその定説(テンプレート)から抜け出すだけの力もなく、日々を過ごしていた。

 だからその日も、早々に巡回を終わらせて、酒を呷って眠るつもりだった。W氏がいうにはその頃になると、夜静かな場所に一人でいると決まって母の言葉の幻聴に悩まされていたんだそうだ。それから逃れるためには酒を飲むしかない、ってことだったけど、その量は増える一方だったみたいだね。

 なのに、そうはいかなかった。

 プールに隣接する校舎の二階を歩いていたときのことだ。例によって幻聴が酷くなり、足音で掻き消そうと乱暴に歩きながら、用務員室に向かっていたW氏の耳に、


 ぱしゃっ…、


 と、水の跳ねるような音がした。
 その涼やかさに、W氏の鼓膜を煩わせていた声が、ぴたりと消えた。

 この僥倖にはっとして、W氏は思わず窓からプールを覗き込んだ。
 それは丁度、満月の夜のこと――皓々と白銀の光振り注ぐその水面で、人影が躍った。


 ぱしゃっ…ぱしゃっ…、


 間違いない。誰かがプールで泳いでる。


【A6|32p|\100 
COMITIA110・第十九回文学フリマにて初回発行、以降COMITIA・文学フリマ等で頒布】



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一次創作小説を書いています。

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当ブログ及び小説家になろうにて、『ミス・アンダーソンの安穏なる日々』『八奈結び商店街を歩いてみれば』を連載しました。前者はおねショタ小説で、現在公開休止中です(無敵の女傭兵ミス・アンダーソンを抹殺すべく派遣された羊ショタ執事悪魔(レベル1)のどたばたコメディ)。後者は大阪のどっかにある商店街が舞台のなにわ人情お約束劇です。

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